23.エリオット波動

23.エリオット波動

相場の値動きを長期的に見ると、大底と天井の繰り返しに何らかの周期性があるように感じる。これは、好況と不況を繰り返す景気と少なからず関連性があるためと考えられる。景気循環については、コンドラチェフ、ジュグラ一、キチンの波動理論が有名だが、値動きに関する理論の代表格としては「エリオッ卜の波動理論」がある。

エリオッ卜の波動理論

米国のチャート分析家ラルフ·ネルソン·エリオットが1938年に相場の値動きについて独特な波動理論を発表した。もともとは米国の平均株価についての考察であったのだが、今日では個々の株価の値動きの判断についても広く利用されている。その基本については次のようにまとめられる。

「大勢的な上昇相場は方向波動(衝撃波)3つと訂正波動(修正波)2つの計5波動から成り立ち、大勢的な下降相場は方向波動2つと訂正波動1つの計3波動で成り立つ」。

また、これらをより細かなレベルで見ると、「方向波動は小さな方向波動3つと小さな訂正波動2つで構成され、訂正波動は小さな方向波動2つと小さな訂正波動1つの計3つで構成される」というものである(図27-1)。つまり、値動きの周期性において、1つの周期とその下のレベルの周期は相互に作用し合っているというわけである。

エリオットは一周期を約250年とする超長期のサイクルをグランド·スーパー·サイクルと呼び、その下のレベルをスーパー·サイクル(一周期は約50年)、さらにその下をサイクル(一周期は約10年)、最も短期の周期をサブ·ミニュエット(数分単位)としている。そのサイクルはそれぞれが密接に関係し合っていて、関係に矛盾があれば、それは波動の捉え方が間違っているとされる。

フィボナッチ級数

エリオットの波動理論で注目すべき点は、その数字の根拠に「フィボナッチ級数」を用いていることである。

フィボナッチ級数とは1、1、2、3、5、8、13、21、34、55、89、144、233…という数列である。これは前の2項の和が第3の項になる(例:34+55=89)という法則性を持っている。このほかにもいくつかの面白い特徴があるが、そこで現れる0.618、1.618あるいは0.382といった数字が目標値の算出などに関わってくるとエリオットは説いている。

ここで、もう一度図27-1を見ていただきたい。例えば、「グランド・スーパー・サイクル」の場合の衝撃波は5、修正波は3で計8波、その下の「スーパー・サイクル」のレベルで細かく見ると衝撃波21、修正波13の計34波となる(その下の「サイクル」では衝撃波89、修正波55の計144波となる)。このように、波動の構成自体にもフィボナッチ級数の概念が含まれている。

次に、1~5波とa~c波の特徴を簡単にまとめてみる。

1波
値固めの段階であり、下降局面における単なる戻りとしか見えない。5つの波の中では最も短いのが通常だが、時には急激な上昇となることもある。
2波
1波の大部分を相殺して(値を消して)しまう。だが、1波の始点(底)を割り込まなければ、本格的な上昇につながる。
3波
力強く、値幅も時間の幅も広くなる。出来高も膨らみ、特に株式の場合はエクステンションが起こりやすい。
4波
1波の天井より下に行くことはない(もし、下に行ったとすれば、l~4波の見方が間違っていることになる)。また、5つの波が完成し下降トレンドに入っても、上昇局面で形成した4波の底を下回ることはほとんどない。
5波
株式の場合は3波ほどの力強さはない。商品の場合は、急激かつ長い上げ相場を演ずることがあり、エクステンションを伴うこともある。
a波
上昇トレンドにおける押しと間違えやすいが、この波が細かい5つの波で形成されたときは、修正場面入りとなる。
b波
戻しの場面だが、新規売りのチャンスでもある。ただし、5波の天井への戻りを目指すこともある。
c波
上昇トレンドが終了したことに疑いの余地がなくなる場面である。

エクステンション

上昇局面における1、3、5波のいずれかにおいては、波の延長(エクステンション=図27-2)が起こりうる。ただし、その場合には残りの2波にエクステンションの可能性はなくなる。例えば、3波にエクステンションが発生すれば5波にその可能性はなくなる。一方、1波にも3波にもそれがなかったときは、5波にエクステンションの発生する確率が高くなる。また、すでに述べたように、エクステンションは株式の場合は3波に、商品の場合は5波に現れることが多い。

このほかの重要なポイントとしては以下の事項が挙げられる。

図27-3のように、上昇第5波が第3波の最高値を上回ることに失敗することもある(フェイラー)。この場合、ダブル・トップの型となり、これは天井形成の典型的なパターンである。また、下降相場での新安値更新の失敗は、ダブル・ボトム型となり、これは底入れのパターンとなる。

訂正波動の基本的な形は5波、3波、5波(5-3-5)のジグザグ型(図27-4-A)だが、3-3-5のフラット型になることも少なくない(図27-4-B)。

反動の目安(押し目や戻りの目標幅)は、以前の波動の値幅に0.382、次いで0.5、0.618、1.618を乗じた数値が関係してくる。以下のA~Cは、その例である。

  • 【A】第3波の高値については、第l波の幅に1.618を乗じた数値と、第2波の底値との合計が最小の目標値になる(図27-5-A)。
  • 【B】5波の目標値は、1波の始めから3波の天井までの上昇幅を0.618倍した数値を4波の底にプラスした水準から、4波の天井にプラスした水準の範囲内となる(図27-5-B)。
  • 【C】修正のa-b-c波について、c波の目標幅を求めるには、a波に0.618を乗じ、この数値をa波の底から引けばよい(図27-5-C)。

エリオット波動理論では、以上に述べたパターンや比率のほかに、時間の概念も重視している。この時間については、天井や底は、以前の天井や底を打った日から数えて、フィボナッチ級数に関連する日数を経過したときに起きるとされている。つまり、13日め、21日め、34日め、55日めといった具合である。

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