【業界図鑑】パルプ・紙業界 ~ 製紙メーカーはセルロースナノファイバーの製品採用に注力

2020年02月26日
岡三証券株式会社 岡三オンライン証券カンパニー

【業界図鑑】パルプ・紙業界 ~ 製紙メーカーはセルロースナノファイバーの製品採用に注力

2006年に国連事務総長が提唱した「責任投資原則 (PRI) 」は、ESGを投資プロセスに組み入れるというものだが、現在約2,400の年金基金やファンドが署名している。2015年に年金積立金管理運用独立行政法人 (GPIF) が署名したこともあり、日本企業においてもESG要素であるEnvironment (環境)、Social (社会)、Governance(ガバナンス) への意識が高まっている。
ここ最近は、ステークホルダーの視点を重視したESGだけでなく、貧困問題などを含むグローバル環境・社会の視点を重視したSDGs ( =Sustainable Development Goals、国連の持続可能な開発目標) を意識する企業も増えてきた。こうした動きは、パルプ・紙業界にとってプラス面とマイナス面がある

1. 市場の傾向に変化なし

紙の製造プロセスは、まず原木をチップにし、パルプという植物やその他の物から成る繊維を作る。パルプは消費者から回収した古紙からも作ることができる。その後パルプを水中に分散させ、金網や機械で薄く平らに濾し、脱水して乾燥させる。生産品は「洋紙」と「板紙」に大別される。

日本製紙連合会の試算によれば、2020年の洋紙と板紙を合わせた内需量は2,494万トン (前年比-1.7%) で、10年連続のマイナスとなることが見込まれている。内訳は、洋紙が1,313万トン (-3.2%)、板紙が、1,181万トン (+0.1%)。洋紙は、少子高齢化の進展と紙から電子媒体へのシフト(ペーパーレス化)により、年々需要が低下している。中でも「新聞用紙」は、2019年の-7.8%に続き、2020年も-6.0%と引き続き低調に推移する見通しだ。

2. 需要が期待できる衛生用紙と段ボール原紙

一方、洋紙の中で唯一健闘しているのがティッシュペーパーやトイレットペーパーなどの「衛生用紙」である。2019年の内需量は202万トンと全体に占める割合は少ないが、前年比+2.2%と緩やかに成長している。世帯数の増加やインバウンド需要によるホテル・商業施設の増加に伴い、今後もプラス成長が見込まれる。

板紙は全体的に底堅い。2019年の「段ボール原紙」の内需量は917万トン (-1.6%) であり、米中貿易摩擦と天候不順の影響を受け、7年ぶりにマイナス成長となった。しかし、2020年は前年比+0.5%となる見通し。

<新聞用紙、衛生用紙の販売数量の推移 (2014/12 ~ 2019/12)>

出所:経済産業省生産動態統計より作成

3. 環境からみたプラス面とマイナス面

洋紙に含まれる「包装用紙」は、2019年に前年比-2.5%と落ち込んだが、食品需要やEコマースの拡大に支えられ、2020年は-0.9%にとどまる見通し。「包装用紙」は、簡易包装化や他の素材へのシフトといったマイナス要因により減少傾向が続いている。しかし、脱プラスチックというプラス要因が出てきた。プラスチック製レジ袋の有料化義務化や紙ストローの採用などの企業のESG意識の高まりが追い風となるだろう。

さらに環境面で注目すべきは、鋼鉄の5分の1の重さで5倍の強度を持つ「セルロースナノファイバー」である。植物由来であるためカーボンニュートラルであり、自動車や住宅の部材への採用が期待されている。実用化の動きは今後加速すると見られるため、製紙メーカーが環境問題に貢献することが期待できる。国内首位の王子ホールディングスが、セルロースナノファイバーシートの初の実用化として卓球ラケット用素材への採用を発表。第2位の日本製紙は、大人用紙おむつに既に採用している。

4. パルプ・紙関連銘柄

コード 銘柄名 概要 終値
(2/26)
注文画面
3861王子ホールディングス製紙世界第4位。国内首位、うち洋紙第2位、板紙首位。海外売上高比率は32%。アジア、オセアニアに製造販売拠点を構築。国内洋紙第6位の三菱製紙 (3864) に33%出資。家庭紙ブランドは「ネピア」。547
3863日本製紙製紙世界第9位。国内第2位、うち洋紙首位、板紙第3位。海外売上高比率は17%。2017年、石巻工場で世界最大級のセルロースナノファイバー量産設備 (年間500トン) を稼働。同年9月に島根県江津事務所で食品・化粧品等向け量産設備を稼働。家庭紙ブランドは「クリネックス」「スコッティ」。1,653
3865北越コーポレーション国内第5位、うち洋紙第4位。洋紙白板紙に特化。海外売上高比率は35%。印刷情報用紙においては新潟に国内最大級工場を持ち、生産効率が高い。またガラス繊維をシート化したエアフィルターの技術も世界屈指のレベルとして評価が高い。三菱商事 (8058) との資本提携を解消。471
3880大王製紙国内第4位、うち洋紙第3位、板紙第4位。アジアで多品種展開を推進。2020年に三島工場(愛媛県)にバイオマスボイラー新設し電力販売を予定。北越コーポレーションが21.7%の株式を保有する持分会社だが対立。家庭紙は国内首位でブランドは「エリエール」。1,438
3941レンゴー製紙世界第18位。国内第3位、うち板紙第2位。段ボールは国内首位で、板紙から一貫生産。海外売上高比率は11%。22016年10月、香港に拠点を置くトライウォール社(ケイマン諸島)を100%子会社化し、重量物段ボールの世界的ブランド「Tri-WallPak」「Bi-WallPak」を取得。782

著者プロフィール

増井 麻里子(ますい まりこ)氏

株式会社Good Team 代表取締役社長

証券会社、ヘッジファンドを経て、米系格付会社・ムーディーズでは多業界に亘る大手事業会社の信用力分析、政府系金融・国際協力銀行(JBIC)では国際経済の調査を担当。

経済アナリストとして独立し、主に投資家向けのアドバイザリー業務を実施。

2017年6月、株式会社Good Teamの代表取締役社長に就任。

主な執筆・出演に週刊エコノミスト、国際金融、時事速報、Bloombergセミナー、日経CNBCなどがある。

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