【業界図鑑】電力・ガス業界 ~ アジア需要が期待される洋上風力発電

2020年02月12日
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【業界図鑑】電力・ガス業界 ~ アジア需要が期待される洋上風力発電

1月11日、台湾で総統選挙の投開票が行われ、現職の蔡英文 (ツァイ・インウェン) 氏が得票率57%で再選された。同氏とは対照的に、経済的恩恵を求め中国との関係強化を主張した韓国瑜氏の得票率は、39%と伸びなかった。

蔡氏は、2025年までに再生可能エネルギーの発電比率を20%に引き上げることを目標としている。そのうち洋上風力発電は5.7GW (ギガワット) と全体の7%を占める。以前の目標である4.2GWから上方修正された。蔡氏の再選は、日本のエネルギー業界にとってはチャンスだ。

1. アジアでは台湾が先行

昨年11月、台湾初の洋上風力発電事業「フォルモサ1」の完工式に出席した蔡氏は、「台湾はアジアの再生エネルギーの先駆者である」と述べた。「フォルモサ1」には、東京電力と中部電力が共同出資する「JERA」が参加している。22基の風車による総発電容量は12万8000kWに達し、12万8000戸の家庭の電力を賄うことができる (8000kW分は2017年に運転開始済み) 。現在、隣接地域で47基37.6万kWの「フォルモサ2」の建設が進行中であり、「JERA」は49%の権益を取得している。「フォルモサ3」は、200万kWで世界最大級となる見通し。

台湾の洋上風力には日本政府のサポートがある。日本政府としては、台湾を布石として、アジアに積極的に進出したい考えだ。三菱重工業とデンマーク大手のヴェスタスが折半出資する「MHIヴェスタス」が台湾に風車を輸出するが、その貿易保険を政府系の日本貿易保険(NEXI)が引き受けている。

2. アジアでの需要が期待される

Global Wind Energy Council (GWEC) によれば、2018年の世界の風力発電設備容量は、約5.9億kWだった。そのうち洋上風力発電は2,314万kWであり、79%が欧州の沖合に存在する。英国が世界の累積導入量の34%を占めているが、2018年には新規の設備容量において中国が英国を抜き首位となった。

アジアでは、陸上の風力発電適地にも人口が密集していることが多いため、洋上発電が期待される。台湾のように大陸棚が広ければ、大規模な発電が可能であり、ポテンシャルが高い。

<世界の風力発電の導入状況>

注:2004年以前の国別データなし。
出典:Global Wind Energy Council (GWEC)「Global Wind Report(各年)」を基に作成
出所:経済産業省「エネルギー白書2019」

3. 日本で風力開発が進まなかった理由

風力は太陽光と比べて、昼夜、晴雨を問わず発電できるところが魅力だ。ただし、安定して風が吹くことが重要である。また、風力発電設備は台風などの影響で故障しやすいという問題がある。倒壊や部品の脱落、飛散による人身事故を確実に防がなければならない。風力発電施設が自然環境や景観に悪影響を及ぼすことも事実だ。

さらに重要なボトルネックとして、日本には「系統連系問題」がある。発電した電力を電力会社から受電する電力と接続するシステムを「系統連系」という。他の電力と同様の品質が要求されるため、風が安定して吹かず電圧や周波数に問題が起これば系統から切り離されてしまう。さらに、電力需給がエリアごとに管理されることにはデメリットがある。風力発電設備は北海道と東北に偏っているため、電気が余る場合は「地域間連系線」を通じて他のエリアに融通しなければならない。

日本は山がちで人口密度が高いことから、今後は陸上風力発電よりも洋上風力発電に期待が高まっている。日本でも法整備と共に計画中のプロジェクトが進められることが期待される。国策である「インフラ輸出」において、原発に替わり洋上風力が有望となっていることもポジティブ要因である。

4. 風力発電関連銘柄

コード 銘柄名 概要 終値
(2/12)
注文画面
5021コスモエネルギーホールディングス石油元売り大手。2019年に国内初の風力開発専門会社「エコ・パワー」を完全子会社化し「コスモエコパワー株式会社」を設立。風力発電国内第3位。2,131
8015豊田通商トヨタ系総合商社。トーメン時代にグループの電力事業としてスタートした「ユーラスエナジー」に60%出資。風力発電首位。3,765
9501東京電力ホールディングス「ユーラスエナジー」に40%出資。10年後に再生可能エネルギーを火力発電並みの収益規模にする方針。441
9513電源開発日本最大の卸電気事業者。愛称はJ-POWER。北九州市沖で洋上風力発電の実証事業を開始。風力発電第2位。2,524
9519レノバ再生可能エネルギー発電と開発・運営を手掛ける。秋田県沖に国内最大級となる洋上風力発電の開発を検討。1,140

著者プロフィール

増井 麻里子(ますい まりこ)氏

株式会社Good Team 代表取締役社長

証券会社、ヘッジファンドを経て、米系格付会社・ムーディーズでは多業界に亘る大手事業会社の信用力分析、政府系金融・国際協力銀行(JBIC)では国際経済の調査を担当。

経済アナリストとして独立し、主に投資家向けのアドバイザリー業務を実施。

2017年6月、株式会社Good Teamの代表取締役社長に就任。

主な執筆・出演に週刊エコノミスト、国際金融、時事速報、Bloombergセミナー、日経CNBCなどがある。

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