2019年11月20日
岡三オンライン証券株式会社
【業界図鑑】保険業界 ~ 相次ぐ自然災害でコンバインドレシオが上昇
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今年は甚大な被害をもたらす台風が2つも上陸した。10月12日に日本に上陸した台風19号には気象庁によって名前が付けられる見通しで、2020年5月までに名称が決定する。目的は、災害の経験や教訓を後世に伝えるためである。気象庁は「大規模損壊1000棟以上、浸水家屋1万棟以上、相当の人的被害」を名前を付ける基準としている。今回の命名は、1977年の「沖永良部台風」以来で42年ぶりとなる。9月9日に上陸した台風15号にも、名前が付けられる可能性がある。
1. 損保大手3グループの保険金支払い額が8,600億円超に
11月19日、損保大手3グループは、2019年度の中間決算を発表した。合計の連結純利益が前年同期比2.7倍と好調だった。SOMPOホールディングスは、下期に発生した自然災害に備え、通期純利益予想を引き下げたが、他の2グループは据え置いた。
台風15号と台風19号での保険金の支払い額は、大手3グループだけで8,600億円を超える見込み。内訳は、台風15号関連が3,788億円、台風19号関連が4,900億円。損保市場は大手3グループで9割を占める寡占状態であり、業界全体では1兆円程度となるだろう。
2. コンバインレシオが上昇
2018年度の国内の損害保険業界における正味保険料は、8兆3,928億円 (前期比+0.1%) だった。地震保険を主とした火災保険や新種保険が牽引した。正味支払保険金も、5兆3,242億円 (同+13.2%) と増加した。2018年度も大阪、北海道の地震と、西日本豪雨があり自然災害が多い年だった。
収益状況を見ると、損害率「(正味支払保険金+損害調査費)÷正味収入保険料×100)」と事業費率「(諸手数料及び集金費+保険引受に係る営業費及び一般管理費)÷正味収入保険料×100」を合計した「コンバインド・レシオ」が2013年度から2017年度までは100%を下回っており、保険引受本業で黒字を維持してきた。しかし、2018年度は101.6% (同+7.5ポイント) となり、今年度も100%を上回ることが予想され、赤字が続く見込みだ。
<コンバインド・レシオの推移>

出所:日本損害保険協会資料より作成
3. 資産運用状況は減益
保険会社にとっては、資産運用も重要だ。2018年度の資産運用収益は、8,468億円 (同+12.3%) と好調だった。利息や配当金収入の増加が寄与した。資産運用費用は、有価証券評価損の減少により、1,019億円 (同-33.5%)。差額の資産運用粗利益は、7,449億円 (同+23.9%) と好調だった。運用利回りは2.46%を確保。今年度は国債をはじめとする有価証券の割合を減らし、買入金銭債権での運用を増やしている。運用益は減少する見通し。
損保大手3グループは、2021年1月に火災保険料を上げる方向で検討している。継続的なコスト削減に加え、ここ最近は海外進出や新商品で業績を伸ばしてきたため、利益が蓄積している。企業努力の賜物ではあるが、マクロ経済的に家計の状況を見れば、保険料の引き上げによる契約者負担増が認められるかは不透明だ。
<大手3グループの業績推移>

東京海上HD

MS&ADインシュアランスグループHD

SOMPOHD
注:20/3期以降はコンセンサス
出所:岡三オンライン証券-企業分析ナビ
4. 保険関連銘柄
著者プロフィール
増井 麻里子(ますい まりこ)氏
株式会社Good Team 代表取締役社長
証券会社、ヘッジファンドを経て、米系格付会社・ムーディーズでは多業界に亘る大手事業会社の信用力分析、政府系金融・国際協力銀行(JBIC)では国際経済の調査を担当。
経済アナリストとして独立し、主に投資家向けのアドバイザリー業務を実施。
2017年6月、株式会社Good Teamの代表取締役社長に就任。
主な執筆・出演に週刊エコノミスト、国際金融、時事速報、Bloombergセミナー、日経CNBCなどがある。
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