【業界図鑑】小売業界 ~ 書店はロングテイルに対応できるか?

2019年11月06日
岡三オンライン証券株式会社

【業界図鑑】小売業界 ~ 書店はロングテイルに対応できるか?

書店調査会社アルメディアによれば、2018年の書店数は1万2,026店で、20年前から約1万店も減少している。ここ数年では有名な大型、中堅のチェーン店の閉店も目立ってきた。今後はどのような書店が生き残るのだろうか?

1. 電子出版を牽引しているのはコミック

全国出版協会の統計によれば、2019年上半期 (1~6月) の紙の出版物の販売金額は、6,371 億円(前年比-4.9%)だった。内訳は書籍が3,626億円 (同-4.8%)、雑誌が2,745億円 (同-5.1%)。その動きとは対照的に、電子出版は1,372億円 (同+22.0%) と伸びている。中でも牽引しているのは電子コミック (+27.9%) であり、電子出版全体の83%を占めている。しかし、電子書籍や電子雑誌の市場は小さい。電子書籍は+8.5%だったが、電子雑誌は-15.1%という厳しい結果となった。NTTドコモの定額制雑誌読み放題サービス「dマガジン」の会員数が減少していることが響いた。

2. まだ売れる雑誌とは

紙の雑誌の減少は、前年までの二桁マイナスからは縮小した。しかし、今度は電子の方にも波及している。そもそも、雑誌というものを定期的に購読してくれる一般読者が減っているため、生き残っている雑誌は、法人や団体に定期購読してもらえるものが多くなっている。そして、それらは書店で買う必要がないため、書店の売り上げにはつながらない。

例えばスポーツ雑誌であれば、その競技を「観る人」の数というのは水物と言える。人気が出てもブームで終わることも多い。したがって、「やる人」にも役立つような、スキルアップのヒントを内容に織り込むことになる。学校やクラブなどは定期的に購読してくれるからだ。「やる人」の数の変動は「観る人」ほど大きくなく、ある程度予測可能だ。

3. 書店はコンテンツの細分化に対応できるか?

大型書店に行けば、入口付近にある本はどこへ行っても同じようなラインナップになっている。書店としても、売れているものをもっと買ってもらうことが重要だと考えているのだろう。本来は店員おすすめの掘り出し物のような本を売りたいはずだが、そのようなことをする余裕はなくなってきている。

一方で、1年に発売される本は全部で7万5,000部もある。読者の嗜好が細分化され、自己啓発系でさえ、的を絞った内容のものが多くなっている。出版社のこのようなマーケティング手法は「ロングテイル」と呼ばれている。高需要商品があったとしても、低需要商品を多く持つことで、競争相手が少ない市場を確実に捉えることができる。結果的に、低需要商品の合計が売上全体の8割を占めるという形になる。当然低コストで商品が作れることが前提であることは言うまでもない。

これからの書店は、ロングテイルにもしっかり対応しなければ、益々客を呼べないだろう。売り場スペースには限りがあるため、ベストセラーと周辺企業の業種に合わせた専門分野を強化するしかない。または、数フロアにまたがって展開し、圧倒的な品ぞろえで勝負するしかないだろう。立地はビジネス街でないと厳しいだろう。

<日本の出版販売額(取次ルート)>

出所:出版科学研究所

4. 書店関連銘柄

コード 銘柄名 概要 終値
(11/6)
注文画面
3058三洋堂ホールディングス東海地盤。主に郊外で新本・古本併売のハイブリッド型書店を展開。フィットネス等を併設した「ブックバラエティストア」で新規事業を推進。894
3138富士山マガジンサービス法人・個人に紙雑誌のオンライン定期購読サービスを提供。ECサイトのイードと事業提携し、食品・衣類の販売を構想。763
3159丸善CHIホールディングス丸善ジュンク堂を展開。出版、取次も手掛ける。保育士派遣、PC修理など多角化。377
7640トップカルチャー蔦屋書店を展開。セルフレジを全店に導入。株式会社TSUTAYAが15.9%出資。346
9978文教堂グループホールディングス文教堂を関東軸に展開。2020年8月期前期で30店舗閉鎖。事業再生ADR活用で再建中。158

著者プロフィール

増井 麻里子(ますい まりこ)氏

株式会社Good Team 代表取締役社長

証券会社、ヘッジファンドを経て、米系格付会社・ムーディーズでは多業界に亘る大手事業会社の信用力分析、政府系金融・国際協力銀行(JBIC)では国際経済の調査を担当。

経済アナリストとして独立し、主に投資家向けのアドバイザリー業務を実施。

2017年6月、株式会社Good Teamの代表取締役社長に就任。

主な執筆・出演に週刊エコノミスト、国際金融、時事速報、Bloombergセミナー、日経CNBCなどがある。

メルマガ「5 分でチェック!世界の経済指標の読み方」(毎週3回程度)配信中。

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