【業界図鑑】化学業界 ~ 農薬メーカーの成長戦略に注目

2019年08月21日
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【業界図鑑】化学業界 ~ 農薬メーカーの成長戦略に注目

農業ビジネスと言えば、依然として国内産業のイメージがある。しかし、農薬メーカーはグローバルに展開し、最大市場であるブラジルの成長を取り込んでいる。今回は多様な製品を扱う化学業界のうち、農薬分野に注目してみたい。

1. 農薬市場の規模

日本化学工業協会のデータによれば、2016年の化学工業の出荷額は、27.2兆円 (日本の製造業の9.0% ) だった。これは輸送用機械器具の64.9兆円 (21.5%)、食料品の28.4兆円 (9.4%) に次ぐ規模である。化学製品は3種類に大きく分けられる。原油、ナフサ、天然ガス、リン鉱石などの原料から生まれる「基礎化学品」 (エチレン、ベンゼン、塩素など) 、そこから加工される「中間化学品」 (合成樹脂、界面活性剤、医薬品原薬など)、 一般消費者や他の産業が使用する「最終化学品」 (家庭用洗剤、殺虫剤、食品添加物など) である。最終化学品の出荷額は15.6兆円と化学工業全体の57.5%を占めるが、農薬は1.3%と小規模である。

2. 農薬市場の構造

日本の農薬製剤市場は、4,000億円規模で、あまり寡占化されていない。企業別シェアは、上位7社で約5割となっている。世界を見れば、2017年6月、最大手のスイスのシンジェンタが中国国有企業である中国化工集団に買収される動きがあった。戦略的に重要なビジネスと見られている。同社は農薬部門で1兆円を超える売上規模を持っており、ドイツのバイエルとBASF (バスフ)、米国のダウ・ケミカルと続く。日本メーカーの農薬の海外売上高比率は50%を超え、グローバル展開しているが、規模は小さく、競争力があるとは言えない。最大手の住友化学でさえ、この部門の売上はシンジェンタの3分の1程度であり、日産化学、日本農薬、日本曹達、クミアイ化学工業、石原産業などは500億円規模で20分の1である。

国内の農薬製剤市場の企業別シェア (2014年) 単位:億円

出所:農林水産省 「生産者の所得向上につながる生産資材価格形成の仕組みの見直し」

3. 研究開発とM&Aを推進

農薬にも特許があり、切れた後は売上が減少する。メーカーの成長戦略として、自社での研究開発に加え、海外メーカーを買収する動きも出てきた。研究開発費の増加と競争激化により、時間を買う戦略を採らざるを得ないのだろう。また、政府は日本農業の競争強化プログラムを推進しており、農薬についてはジェネリック農薬の開発と利用を促進している。まさに医薬品業界と似た現象が起きていると言える。しかし、国内では全農が購買の約4割を占める安定ビジネスでもある。参入障壁も高いため、特に一貫体制を持つメーカーは、販売数量を維持するのではないだろうか。

4. 農薬関連銘柄

コード 銘柄名 概要 終値
(8/21)
注文画面
4021日産化学化学肥料から出発した老舗メーカー。ブランドは除草剤「ラウンドアップ」など。4,770
4028石原産業探鉱で発祥した酸化チタンの大手。農薬が利益の柱。872
4041日本曹達苛性ソーダから出発した老舗メーカー。ブランドは殺虫剤「モスピラン」、殺菌剤「トップジンM」など。2,411
4997日本農薬農薬専業。国内向けは縮小でもブラジル向けは拡大。ADEKA(4401)が子会社化。437
4996クミアイ化学工業全農系。水稲用が柱。タイで増産投資。ドローンでの農薬散布事業に参画。900

著者プロフィール

増井 麻里子(ますい まりこ)氏

株式会社Good Team 代表取締役社長

証券会社、ヘッジファンドを経て、米系格付会社・ムーディーズでは多業界に亘る大手事業会社の信用力分析、政府系金融・国際協力銀行(JBIC)では国際経済の調査を担当。

経済アナリストとして独立し、主に投資家向けのアドバイザリー業務を実施。

2017年6月、株式会社Good Teamの代表取締役社長に就任。

主な執筆・出演に週刊エコノミスト、国際金融、時事速報、Bloombergセミナー、日経CNBCなどがある。

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