【業界図鑑】食料品業界 ~ ビールメーカーが2020年に強気な理由

2020年01月29日
岡三証券株式会社 岡三オンライン証券カンパニー

【業界図鑑】食料品業界 ~ ビールメーカーが2020年に強気な理由

1月9日、キリンビール、アサヒビール、サントリービール、サッポロビールの大手4社の2020年事業方針が出揃った。
2019年国内ビール類市場は前年比-2%程度となり15年連続で縮小したと推定される。しかし、2020年は、大手4社は前年比0~1%程度の販売増を見込む。

1. ビールの割高感が軽減される

ビール類市場は、1994年をピークとして約30%縮小している。ビール類は「ビール」、「発泡酒」、「新ジャンル (原料が麦芽以外)」に分けられるが、現在の酒税額はそれぞれ77円、46.99円、28円である。今後2020年10月、2023年10月、2026年10月と3段階にかけて54.25円に統一される。したがって、中長期的には「ビール」の値下げが期待できる。また、「ビール」の定義が麦芽比率67%以上から50%以上に変更され、柑橘系ビールなどで新たな需要を喚起することが可能となった。

2. 東京オリンピックでの需要増を見込む

さらに、ビールの追い風として、東京オリンピックの開催が期待されている。ビールほど世界で愛好されているお酒はないと言っても過言ではない。気候や地理的要因に制約されるワインとは異なり、原料が手に入りやすく製造コストも抑えられる。世界では歴史的に、ビールは庶民にとって清潔な水よりも安く手に入れられる貴重な飲み物だった。現在でも欧州では、ビールの方がミネラルウォーターより安い国が多い。日本ではビールの税率が高く、衛生的な水が手に入れやすいため考えられないが、欧州では水替わりのように飲まれている。オリンピックで来日する外国人による需要が期待される。

アサヒビールは、ビールメーカーで唯一東京オリンピックのゴールドパートナー (ビールとワイン)となったため、会場で独占的に販売することが可能だ。スタジアムや日本代表選手団のイラストを入れた商品や、エンブレムをデザインしたオリジナルラベルでブランドをアピールする。

3. 海外戦略が分かれる

国内事業では、消費者の節約志向の高まりから、各社とも新ジャンル (第三のビール)とRTD (ready to drink;チューハイ、カクテル、ハイボールなど) のブランドを強化する。さらに、今後もクラフトビールが伸びることを予想し、ビールにおける消費の高度化にも対応していく。サントリー (非上場) は、「TOKYO CRAFT」を前年比+42%販売することを目標としている。

海外事業では、戦略が分かれる。かつてはキリンが海外進出に積極的だったが、現在はブラジルから撤退するなど縮小傾向にあり、国際事業は売上の26%程度にとどまっている。一方アサヒは、2016年に西欧4社、東欧5社を買収し、2019年7月には豪州ビール大手、カールトン・アンド・ユナイテッド・ブルワリーズを約1.2兆円で買収すると発表した。2016年度の国際事業は15%だったが、2018年度には34%となった。サッポロもようやく国際事業に注力し始め、韓国への「ヱビスビール」の輸出、中国市場への参入で15%まで上げてきた。しかし、北米の天候不順で利益が出ず、不動産収入で業績を支えている状態である。
各社とも国内で二極化するアルコール飲料市場に対応しつつ、慎重に海外にも攻めていかなければならない。

<2016/12月期のセグメント別売上高と利益 (億円)>

<2018/12月期のセグメント別売上高と利益 (億円)>

出所: 各社資料より作成

4. アルコール飲料関連銘柄

コード 銘柄名 概要 終値
(1/29)
注文画面
2501サッポロホールディングス国内ビール類第4位。ビール類構成比はビール77%、発泡酒・新ジャンル23%とビール比率が高い。酒類事業と共に不動産事業が収益の柱。海外売上高比率は21%。2,669
2502アサヒグループホールディングス国内ビール類シェア37%、ビールシェア49%(共に自社推定)で首位。オセアニア市場でシェア拡大中。海外売上高比率は34%。5,036
2503キリンホールディングス国内ビール類第2位。発泡酒、新ジャンルは比率が高く第1位。傘下の豪州ライオンの収益構造改革を実施中。海外売上高比率は33%。2,470
2531宝ホールディングス焼酎、みりん、清酒で国内首位。傘下に宝酒造とタカラバイオを持つ。国内酒類事業では焼酎ハイボールが好調。海外売上高比率は35%980
2533オエノンホールディングス焼酎、清酒大手。酒類の売上高比率が89%。チューハイのPBが増加。ドラッグストアチェーンでの酒類販売が拡⼤。384

著者プロフィール

増井 麻里子(ますい まりこ)氏

株式会社Good Team 代表取締役社長

証券会社、ヘッジファンドを経て、米系格付会社・ムーディーズでは多業界に亘る大手事業会社の信用力分析、政府系金融・国際協力銀行(JBIC)では国際経済の調査を担当。

経済アナリストとして独立し、主に投資家向けのアドバイザリー業務を実施。

2017年6月、株式会社Good Teamの代表取締役社長に就任。

主な執筆・出演に週刊エコノミスト、国際金融、時事速報、Bloombergセミナー、日経CNBCなどがある。

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