2019年07月24日
岡三オンライン証券株式会社
【業界図鑑】輸送用機器業界 ~ ハイリスクローリターンが課題の鉄道車両輸出
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日本からシンガポールに直行便で行くと、23時台に到着することが多い。空港を出る頃にはMRT (Mass Rapid Transit; 大量高速輸送システム、地下鉄のようなもの) の終電が出てしまっている。街中へのバスは本数が少ないため、結局タクシーに乗ることになる。MRTは基本的に通勤のために動いているため、観光客の利便性はあまり考慮されていない。シンガポールのような豊かな国でさえ、国土が狭く自動車税が高いことから自家用車を持つ人は少ない。
東南アジアの途上国やインドでは、通勤渋滞による経済損失を解消するために、MRTインフラ整備が数多く計画されている。多くの人は郊外に住んでいるため、都市部だけ運行しても利用者は増えない。都市部の駅までバイクやバスを使わざるを得ないなら、そのまま勤務先に行った方が楽だからである。したがって延伸、乗り入れの需要も増加している。
1. 日本の鉄道車両メーカー
日本の鉄道車両メーカーにとっては、輸出向けの生産が成長ドライバーと言える。国内向けは既存車両からの入れ替え需要はあるが、大きく伸びることは考えにくい。国土交通省の統計によれば、2017年度には合計2,047両が製造された。内訳は国内向けが1,786両、輸出向けが261両。平均単価は全体で9,600万円、国内向けが8,400万円、輸出向けが1億7,800万円程度となっている。輸出向けは船に乗せるまでの費用を含んだ価格であり、車両自体の価格は不明だ。
<鉄道車両生産の推移(2008年度~2017年度) (金額単位:百万円)>

出所:国土交通省「鉄道車両等生産動態統計調査」より作成
2. グローバル競争に勝つためには
日本の車両生産技術は世界でも信頼されているが、海外案件を獲得するのは容易ではない。グローバル競争が激しくなっているからである。2015年には既に世界シェアにおいて首位と第2位だった中国の中国南車と中国北車が合併し、中国中車が誕生した。また、世界ではカナダのボンバルディア、ドイツのシーメンス、フランスのアルストムが欧米ビッグ3と言われるが、2018年に独仏メーカー2社が鉄道車両事業を統合した。日本最大手の日立製作所は、世界では5~6位につけている。
日本はかつて車両を納入して終わりという、手離れの良いビジネスを行ってきたが、2010年の国家戦略プロジェクトに鉄道のパッケージ型インフラ輸出が位置づけられた。今は売り切りではなく、運行システムごと売っていくことが求められている。価格競争もあり採算は良くないが、世界でのプレゼンスを高めるにはやむを得ないだろう。
3. パッケージ型輸出のリスク
2019年3月にはジャカルタで日本が全面的に支援したインドネシア初のMRTが開業した。日本政府がODAで支援し、大林組がトンネル、三井物産が運行システム、住友商事と日本車両製造が車両を提供。総供与金額は1,250億円とされている。しかし、インドネシア政府の補助金が決まっていなかったという問題が発生した。実質的にはODAから日本企業に支払われるが、支払いには事業主「MRTジャカルタ」の許可が必要で、払い渋りが起きてしまった。
日本企業は低利益率や不払い発生などのリスクを負いながら、相手国のニーズにあった製品、サービスを提供してかなければならない。車両を始め、送配電網、メンテナンス、定時運行システムなど日本の技術は高いが、過剰品質にならないようにすることも必要だ。技術だけで勝てる世界ではないため、難しい競争に巻き込まれていると言えるだろう。
4. 鉄道車両・鉄道部品関連銘柄
著者プロフィール
増井 麻里子(ますい まりこ)氏
株式会社Good Team 代表取締役社長
証券会社、ヘッジファンドを経て、米系格付会社・ムーディーズでは多業界に亘る大手事業会社の信用力分析、政府系金融・国際協力銀行(JBIC)では国際経済の調査を担当。
経済アナリストとして独立し、主に投資家向けのアドバイザリー業務を実施。
2017年6月、株式会社Good Teamの代表取締役社長に就任。
主な執筆・出演に週刊エコノミスト、国際金融、時事速報、Bloombergセミナー、日経CNBCなどがある。
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