サウジアラビア債−運用難民の新たなフロンティア【高田レポート】

10/18(月)09:20

岡三グローバル・リサーチ・センター理事長
エグゼクティブエコノミスト 高田 創

金利水没下のフロンティアだが、「高金利国」とは一線を画す


当TODAYではこれまでに、世界の金融市場が「金利水没」状態にあるなか、LED戦略のなかの「L」(海外)の次元で米国債券に加え、中国やポーランドなどを新興国債券のフロンティアとして紹介してきた。先週のTODAYで「2021年度下期に向けて『LED戦略』再構築を」としたが、本日はさらなる海外のフロンティアの一つとして、サウジアラビア債券市場について考える。



一般的に日本の市場で新興国債券が話題になるのは、仕組債等を中心とした高金利国債券であることが多い。一方、筆者は当TODAYで「ソブリンワールドカップ」という議論において、選別基準に経常収支が黒字であることを挙げ、「高金利国」より金利水準は低いものの、財務安定度が高い国々に注目してきた。これまで中国やポーランドを挙げてきたのは以上の基準に沿ったものであり、今回のサウジアラビアも同様である。したがって、一般的な新興国債券と比較して金利水準は低くても、世界の金利水没下では依然、一定の安定的インカムを確保することができるものとなる。



以下の図表はこれまでも紹介してきた金利の水没マップである。サウジアラビアの金利水準は、金利が水没している日本や欧州諸国より高く、米国債を上回る。これまでTODAYで紹介してきた中国やポーランドと並び、新興国のなかでも特別な位置を占める。



世界の金利水没マップ




ソブリンワールドカップの基準は経常収支


以上の水没マップから示されるように、サウジアラビアの利回りはグローバルな金利水没状況下、投資家の一定の関心を集め得る水準と考えられる。ただし、新興国的性格を有するだけに、留意点として①信用度、②スプレッドが付く可能性、③為替安の可能性等が重要な投資判断材料になる。筆者は長年「ソブリン・ワールドカップ」として、世界の国債市場で選別される基準を議論し、市場での評価上、経常黒字国が選別されやすいと考えてきた。



経常収支は安定し、マクロバランス安定


以下の図表はサウジアラビアの経常収支の推移である。サウジアラビアのマクロバランスは、1980・90年代は放漫財政で経常赤字状態に陥っていたものの、2000年代以降は基本的に経常黒字で推移している。コロナショック後を視野に入れた、米国の金融政策の出口観測に伴い新興国経済の脆弱さが議論されやすいが、ソブリン・ワールドカップの基準であるマクロバランス面からはサウジアラビアは合格点であり、信用スプレッドは安定しやすいといえる。2020年は原油価格の異例な下落で一時的にマイナスになったが、2021年予想は再びプラスとなっている。



サウジアラビアの経常収支の推移(1980-2021年)




サウジアラビアの財政は石油収入に依存


以下の図表はサウジアラビアの歳入の内訳である。サウジアラビアは輸出製品の大半を占めるのが原油で、原油価格に影響を受けやすい経済構造にある。政府の歳入においては、2017年の人頭税などの新税導入に加え、政府系投資ファンドの国庫納付金も非石油関連収入として増加しているものの、依然、石油関連収入比率は5割程度を占め、原油市況はサウジアラビアの財政に大きな影響を与えている。



サウジアラビア:歳入の内訳(暦年ベース)




サウジアラビアのクレジットも原油価格に依存


以下の図表はサウジアラビアのCDSスプレッドと原油価格の推移である。産油国であるサウジアラビアは、国家の信用度を表すCDSスプレッドが原油価格と連動する傾向があることが示されている。2020年後半以降、原油価格が上昇するなか、CDSスプレッドは縮小が続いている。



サウジアラビアCDSスプレッドと原油価格の推移




サウジアラビアの金融政策は米国に追随、為替面での不安は限定


次の検討事項はサウジアラビアの金融環境である。以下の図表はサウジアラビアと米国の政策金利推移を示す。サウジアラビアの通貨リヤルはドルペッグ制を採用している(1ドル=3.75リヤル)。国家収入の多くを占める原油輸出代金がドル建てで決済され、その結果、金融政策はほぼ米国に追随、サウジアラビアの米ドル建て国債利回りは米国の長期金利水準を1%以上上回る水準で連動している。海外の投資家にとって投資リスクの一つに通貨下落があるが、サウジアラビアの場合、この不安は少ない。



サウジアラビアと米国の政策金利の推移




サウジアラビアと米国の10年国債利回りの推移




サウジアラビア債の格付はA格水準で安定


以下の図表はサウジアラビアの主要格付会社による格付け一覧であるが、シングルA程度と、日本と概ね同等の投資適格水準にある。



サウジアラビア長期債格付




サウジアラビア債券の金利水準からみた評価


以下の図表はサウジアラビアと同水準、A格の国の10年国債利回りを比較したものである。新興国のなか、同水準の格付けでもサウジアラビアを上回る高金利であるチリ、マレーシアは通貨リスク面から注意が必要である。以上、格付、通貨の安定性、金利水準を総合的に勘案すると、サウジアラビアは従来からTODAYでフロンティアとして挙げてきた、中国、ポーランドに並び、投資の選択肢に入ることになる。



サウジアラビアと同格付国の10年国債利回り比較




サウジアラビア国債への懸念は原油価格と政治リスク


以下でリスク要因も考慮する。先述のように、サウジアラビアの財政状況は原油価格に影響されるが、足元、原油価格は上昇基調が続いておりサウジアラビアの財政的には安定要因となっている。また、政治リスクへの不安意識も根強く存在する。以下の図表はOxford Economicsが算定する「政治リスク指数」であり、過去のイラク戦争やアラブの春が生じたときに上昇する場面はあったが、ここ数年は落ち着いた水準が続いている。



サウジアラビア政治リスク指数(暦年)




サウジアラビアは日本から心理的に遠い面はあるが国際分散投資の一つに


日本と欧州の多くの地域の金利水没が続くなか、水没を免れた地域を目指す運用難民のフロンティアとして、米国やその他の新興国を探す必要がある。今回のサウジアラビアもその延長線上にある。経常収支を中心とした「ソブリンワールドカップ」や格付等の基準もクリアし、ドルペッグ制採用による為替リスクも限定される。



ただし、日本からは遠い存在であることで、心理的距離がリスクプレミアムを生じさせやすい。さらに、中東は紛争が多いとする固定観念も影響する面もある。



一方、サウジアラビアは日本にとって最大の原油輸入国(約3割)である。なおかつ親日国でもあり、既に多くの日本企業がプラント建設や石油化学分野で進出している。近年では、実業面でサウジアラビアの脱石油・産業多角化政策に日本企業が協力する姿勢を示していることに加え、投資面ではソフトバンクグループがサウジアラビアのソブリンウェルスファンドと「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」を設立している。産業・金融面での連携も深まって、日本から実際の投資が進んでいる側面もある。



現状の金利水没という運用上の制約がある環境下で国際分散投資の観点からポートフォリオ的管理を行いつつ、サウジアラビアの債券市場を投資のフロンティアとして検討することには、十分に意味があるだろう。



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(2021年8月30日改定)

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