2019年05月08日
岡三オンライン証券株式会社
【業界図鑑】サービス業界 ~ 多様化する葬儀、変貌する墓
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2018年の人口動態統計によれば、年間の死亡者数は136万9,000人で、9年連続過去最多を更新した。将来推計では、2035年に160万人を超え、2040年に約170万人のピークに達する。葬儀、墓業界の事業環境は、今後20年にわたり安定的と見て良いのだろうか?
1. 異業種からの参入が相次ぐ
葬儀ビジネスにおいては、底堅い需要が見込まれるうえに参入障壁も高くないため、異業種からの参入が多い。私鉄会社が子会社を作り、葬儀社を経営しているケースが多い。陸運も葬儀も地域密着型ビジネスであり、シナジー効果を得られやすいからだろう。例えば横浜、横須賀エリアに斎場を持つ京急グループの「京急メモリアル」は、町内会や自治会と提携し、出張終活セミナーを開催している。終活から葬儀、墓まで一貫して相談できるサービスを提供し、ブランド力を高めている。イオン傘下の「イオンライフ」も同様のサービスを提供し、会員化することで顧客を囲い込む戦略を採っている。
また、南海電鉄の子会社「南海グリーフサポート」は、専門葬儀社ティアのフランチャイズを運営している。このように、既存業者と提携する動きもある。独立系の葬儀社も増加傾向にある。建設業界と同様に、スケールメリットが働きにくいため、業者数は増加しやすい。葬祭専門業者は約5,000社あるとも言われている。ペット葬のセレモニーを提供するなど、サービスも多様化している。
2. 単価の下落傾向は続く
業界は好環境にあるように見えるが、単価は下落している。鎌倉新書の「お葬式に関する全国調査」によれば、2013年は平均総額209.9万円であったのに対し、2017年は178.2万円と低下している。参列者の減少が主な要因と見られる。
今後は平均寿命が延びることで、死亡者の高齢化が進むため、この傾向は続くだろう。近所の人間関係の希薄化もあり、参列者が増えることは見込みにくい。しかし、演出にこだわる業者も増えており、簡素化したものだけが人気ではないようだ。
<平均寿命の推移と将来推計>
3. 墓ビジネスの変貌
墓ビジネスにおいては、いわゆる檀家のお寺離れが問題となっている。文化庁の宗教年鑑によれば、全国に仏教系寺院が7万7,206カ寺もある。そのうち2万カ寺以上が、住職がいない無住寺院となっている。参拝者側の高齢化も進んでおり、郊外の霊園まで行って野外墓石の管理をしたり、檀家寄付をすることが負担となっている。その結果、代々受け継いだ墓を離れ、都市部へ移す動きがある。ここ数年は、ロッカー式に代わり、自動搬送式のビル型納骨堂が人気だ。物流大手のダイフクなどのシステムが使われており、省スペースでありながら立体型であるため数千基を収納できる。参拝者が操作すると、自動でお骨が参拝ブースに届けられる仕組みとなっている。また、葬儀、仏壇、墓のポータルサイトを運営する鎌倉新書など、ITを活用して新たなビジネスを生み出している業者がいる。市場が伸び悩んでいるとはいえ、銘柄選択の幅を広げるには注目すべき業界と言えるだろう。
<葬儀・墓関連3社の業績推移>
4. 葬儀・墓関連銘柄
著者プロフィール
増井 麻里子(ますい まりこ)氏
株式会社Good Team 代表取締役社長
証券会社、ヘッジファンドを経て、米系格付会社・ムーディーズでは多業界に亘る大手事業会社の信用力分析、政府系金融・国際協力銀行(JBIC)では国際経済の調査を担当。
経済アナリストとして独立し、主に投資家向けのアドバイザリー業務を実施。
2017年6月、株式会社Good Teamの代表取締役社長に就任。
主な執筆・出演に週刊エコノミスト、国際金融、時事速報、Bloombergセミナー、日経CNBCなどがある。
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