グローバル株式戦略グループ 河田大輔
日本株式戦略グループ 大下 莉奈
企業の設備投資意欲は根強い
生成AI(人工知能)やEVなど、新技術の普及が追い風となる、設備投資関連企業に注目したい。実際、日本では、情報機関がまとめた2023年度の設備投資動向調査において、全産業の投資額が前年比17%増の32兆円となり、過去最高を更新した。
米国でも、2024年2月の耐久財受注が市場予想を上回るなど、底堅い内容となった。関連企業の株価は一足早く、経済成長の鈍化を織り込んでいただけに、受注動向や設備投資に関する指標の改善と共に、次第に「底打ち」への期待が高まりそうだ。
半導体やEVなどへの投資拡大が追い風に
在庫調整が続いていた世界の半導体売上高(3ヵ月移動平均)は、2023年11月に16ヵ月ぶりに前年比プラスに転じた。また、巣ごもり需要の一巡や物価高による個人消費の停滞を受けて低迷していた半導体メモリ価格も回復基調を辿っている。WSTS(世界半導体市場統計)によると、2024年の世界半導体市場は前年比13%増の5,883億ドルと、過去最高を更新する見通しだ。AIを利用したサービスの普及本格化に加え、低迷していたスマートフォンやPC需要の回復が見込まれる中、データの記憶保持などに使用されるメモリ半導体が市場を牽引することが期待される。
また、足元では足踏みがみられるEV市場も、中長期的には成長が見込まれよう。2024年から2028年にかけて、EV市場は年率平均で10%の成長を達成し、2028年までに9,067億ドル市場へと成長する見込みだ。官民が連携して新技術の開発・普及へ注力することで、更なる設備投資需要が生み出される好循環が発生しているといえよう。
2023年は推定、2024年は予測2023年11月現在
2023年以降は推定・予測2023年現在
国内では倉庫自動化などの需要が高まろう
各国が独自に抱える問題が設備投資関連企業にとって追い風となるケースも多い。日本では2024年4月より、トラックドライバーの時間外労働時間の上限が設定された。ドライバーの労働時間が短くなることで、輸送力が2024年に約14%、2030年には約34%不足し、「モノが運べなくなる」リスクが懸念されている。
この問題の解決策として、政府は2023年6月に3つのポイント(①商慣行の見直し、②物流の効率化、③荷主・消費者の行動変容)についての対策を策定。中でも、②物流の効率化に関しては、自動運転やドローンの活用に加え、自動化・機械化などの設備投資促進が提唱されている。法制化も視野に入っており、今後の動向が注目されよう。
「ロボットブーム」の再来へ
企業による自動化・省力化のためのロボット導入増加に加え、ロボット自体の機能向上・生産強化へ投資も拡大していこう。これまでも、人件費の増加や熟練工の不足、顧客需要の多様化を背景に、1台で複数業務をこなせる多能工型の産業用ロボットや、人と協働できるロボットの開発が進められてきた。もっとも、従来のロボット制御技術は、事前にプログラムした内容に基づきロボットの動きを制御するため、想定外の状況に対応することは難しいほか、プログラムを修正できる人材も限られていた。
こうした状況が生成AIによって変わろうとしている。口頭で指示を受けたAIロボットが動作を行うだけでなく、AIが判断を間違えた場合でも、間違いを指摘する人間の比喩や指示語などの曖昧な言葉を理解し、作業ミスを自律的に修正する研究が進められている。無人搬送車やロボットアームなどの産業向けと、作業支援や配送・掃除などのサービス向けを合計したAIロボット市場は2024年から2030年にかけて年率平均11.6%で成長する見通しである。今後は、ロボット企業に加え、センサーなどの部品メーカーや開発ソフトウェア企業にも注目が集まりそうだ。
2023年6月2日現在
ヒト型ロボット市場が急速に立ち上がろう
また、映像やセンサー情報など複数の異なるデータを分析可能な生成AIをロボットが取り込むことで、より高度なヒューマノイド(ヒト型)ロボットの研究が加速しよう。例えば、米シリコンバレーのヒト型ロボットベンチャーのFigure社は、2024年2月に6億7,500万ドル(約1,000億円)という巨額の資金調達に成功している。出資したのはマイクロソフト、OpenAI、エヌビディア、アマゾン(創業者Jeff Bezos氏含む)、韓国のLGやサムスンなど、それぞれの業界のトッププレーヤーが顔を揃えた。
加えて、2024年3月に開催された米半導体大手エヌビディアのAIイベント「GTC」ではヒト型ロボットの汎用基盤モデルである「プロジェクトGR00T」が発表されたほか、Apptronik、Boston Dynamicsなどロボットベンチャーによる多数のヒト型ロボットが展示され注目を集めた。独BMW、メルセデスベンツなどの自動車メーカーはこうしたヒト型ロボットの工場での導入を計画しており、将来のEV普及のためにも生産性改善に期待がかかろう。
国主導でヒト型ロボットの開発に注力する中国
また、中国でも2023年11月に「ヒューマノイドロボットのイノベーション発展に関する指導意見」が通達された。「大脳、小脳、四肢」など複数の重要技術の開発を達成し、2025年までにロボットの量産化を実現し、2027年までに世界の先端レベル到達を目指している。米中の国家間の先端技術競争はAIからロボットにシフトするとみられている。
ヒト型ロボットの導入が製造重点分野のほか、医療や家事代行など民生分野やサービスで早まれば、前述のAIロボット市場は更なる成長が期待される。世界景気の先行きに対する不透明感は根強いものの、今後も人手不足などの問題解決や、新技術の拡大に向けての設備投資は続くと考える。関連銘柄は中長期的な業績成長が期待できることから、今後も目が離せない状況が続きそうだ。
ティッカー | 銘柄 | 内容 | |
---|---|---|---|
米 | CAT | キャタピラー | 重機メーカー。建設及び鉱業用機器、産業用ガスタービンなどを製造し、世界のディーラー網を通じて製品を販売する |
HON | ハネウェル・インターナショナル | テクノロジー企業大手。航空宇宙製品・サービス、商業用建物向けの制御・感知などを手掛ける | |
MLM | マーティン・マリエッタ・マテリアルズ | 天然資源を基盤とする建材会社。砕石、砂利を含む骨材を提供し、主に民間企業の顧客向けに販売する | |
PH | パーカー・ハネフィン | モーション、制御技術、システムのメーカー。モバイル、産業、航空宇宙市場に精密工学ソリューションを提供する | |
中 | 1810 | シャオミ | 中国のスマートフォン大手で、IoTやEV分野も展開する。2022年にヒューマノイドロボット「Cyber One」を発表した |
コード | 銘柄 | 内容 | |
日 | 6141 | DMG森精機 | 工作機械専業大手の一角。切削型工作機械の総合メーカーで、数値制御装置付旋盤などを手掛ける |
6268 | ナブテスコ | 精密減速機で世界最大手。鉄道、ロボットなど様々な分野で用いられるモーションコントロール装置・機器を手掛ける | |
6383 | ダイフク | 立体自動倉庫などの搬送・仕分け・ピッキング・保管に用いられるマテリアルハンドリングシステム・機器のメーカー | |
6861 | キーエンス | 各種センサーや測定器、制御・計測機器など、生産現場の生産性や品質向上に貢献する製品を多数抱える | |
6954 | ファナック | 工作機械などに搭載されるコンピューター数値制御装置で世界トップシェア。AI技術の製品への適用を進める |
ティッカー | 銘柄 | 内容 | |
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米 | GOOGL | アルファベット A | 傘下のGoogle Deep Mindsが、昨年7月にロボット能力向上のAIモデルを発表。GTCでもロボットを展示予定 |
SNPS | シノプシス | 半導体や電子機器などの設計支援ソフトを提供。24年1月に産業シミュレーションのアンシス買収を発表した | |
DIS | ウォルト・ディズニー | スタントロボットや生物を模したアニマトロニクスなどを開発。GTCでもロボット展示や講演を行う | |
ROK | ロックウェル・オートメーション | FAシステム設計用ソフトウェア「FactoryTalk Design Studio」に生成AIの機能を組み込む | |
独 | 独SIE | シーメンス | 製造業などで最小限のプログラミング知識でウェブアプリなどを構築できるツールに生成AIを導入 |
コード | 銘柄 | 内容 | |
日 | 6506 | 安川電機 | 23年12月にAIによる認識機能や動作計画機能などを標準搭載したロボットアームを発売 |
6902 | デンソー | 生成AIを使った自律型ロボット制御技術を開発。ロボットアームやAMR(自律走行搬送ロボット)へ導入する | |
7267 | 本田技研工業 | 人型ロボットや次世代モビリティを開発中。東大と24年3月に、ロボットとAIの融合領域における研究で連携 | |
9432 | 日本電信電話 | 23年11月、 生成AI大規模言語モデル「tsuzumi」が人型ロボットを制御する連携デモを公開 | |
9984 | ソフトバンクグループ | 傘下のソフトバンクロボティクスが自律型ヒューマノイド・ロボット「Pepper」や配膳・清掃ロボットなどを展開 |