グローバル株式戦略グループ
1.世界のIPビジネスに黄金期到来か
世界のIPマーケットは今後も成長が予想される。IPとは「Intellectual Property(知的財産)」の略語だ。従来よりコンテンツをIP化させる取り組み(アニメ化してグッズ販売等)は存在していた。
だが最近のネットフリックスやアマゾン・プライム・ビデオなど巨大プラットフォーマーの誕生は、世界のエンタメ・メディア業界に新たな地殻変動をもたらしている。
その高い集客力とサブスクリプションビジネスによる安定的なキャッシュ創出力を背景に、IP・コンテンツホルダーにも影響力を行使し始めた。
エンタメ業界では、「コンテンツを創造して売る」から、「コンテンツをIPにして広げる」が大きく進んだ。
2.グローバル化するIPビジネス
IPビジネスはグローバル化しつつある。東南アジア・中東・南米は豊かな人口をベースに経済成長が見込まれているほか、国内コンテンツ産業が活発なインド等でもIP消費は広がっている。
先進国中心であったIPマーケットが新興国にも広がりつつある。そうしたなか、中東のオイルマネーが日本のエンタメ企業への投資を加速させている。
3.日系IPを「爆買い」するサウジアラビア
サウジアラビアの政府系ファンド「パブリック・インベストメント・ファンド(PIF)」は、任天堂、カプコン、ネクソン、東映、コーエーテクモ等の株式も大量に保有している。
同国は宗教上の理由で娯楽活動を制限してきたが、2017年に映画館営業を解禁するなど政策転換に踏み切ったほか、自国コンテンツ産業育成も掲げており、日系IPへの投資は続きそうだ。
※全て岡三証券取扱い銘柄
4.世界のエンタメ業界を席巻する日本のアニメ
日本のアニメ産業は、日本経済の牽引役として2000年代前半から注目度が増してきた。特に日本アニメの海外市場規模は近年、急拡大しており、2021年には約1兆3,100億円と過去最高を更新し、国内、海外市場を合わせた約2兆7,400億円のうちの48%に達した。
潮目を変えたのは世界的な動画配信の普及で、日本アニメが世界に同時拡散したことだ。もはや日本アニメは「サブカルチャー」ではなく、「メインカルチャー」になったと言え、今後も世界の熱狂は続くとみる。
米国ではネットフリックスやアマゾン・ドット・コムなどが自社の動画配信コンテンツを拡充する狙いから、日本のアニメ作品を次々に購入し、日本の制作会社と組んでオリジナルアニメの制作に乗り出している。
米国以外でもソニーGは2020年に中国の動画配信サービスのビリビリに対し、約430億円を出資した。日本アニメの人気が高まっている中国市場の将来性を見据えた布石とみる。
※SVODとは、Subscription Video On Demandの略で定額制動画配信のこと
5.日本アニメのグローバル市場での波及効果
日本アニメは日本が誇る成長産業であり、エンタメ業界だけでなく、旅行業界や日本食材卸を手掛ける企業などインバウンド関連産業に大きな波及効果があるとみている。
例えば、「聖地巡礼」と呼ばれる行動は、アニメのファンが作品の舞台となった地域を訪問し、ドラマを追体験することだ。現在では、地域活性化や観光振興策としても注目されている。
他方、アニメが日本文化の先導役となり、グローバルで日本食需要の拡大に寄与している模様だ。中南米などでは日本食レストラン数が大幅に増加している。
日本の食材を海外の日本食レストランや小売店に卸す「日本食材卸」ビジネスは、今後も成長が期待できることから、海外進出に積極的なキッコーマンなど関連銘柄にも注目したい。
2023年10月13日時点
キッコーマン(2801プライム)
しょうゆ最大手
国内で3割超のシェアを持つしょうゆのトップメーカー。製造・販売だけでなく、日本食材を中心とする東洋食品の卸売事業にも取り組む。キッコーマンしょうゆをはじめとして、しょうゆ関連調味料、和風そうざいの素、デルモンテトマト製品、マンジョウ本みりん、マンズワイン、豆乳飲料などを展開している。
世界の「kikkoman」へ
世界的に堅調な日本食人気を背景に、しょうゆなどの日本食材の卸売りビジネスが海外で活況だ。当社は海外進出にも積極的であり、売上収益の76%(24/3期3Q累計実績)を海外が占める。1973年には“Made in USA”のしょうゆが初出荷され、10年後の1983年に家庭用市場で現地の化学しょうゆを抜き、全米シェアナンバーワンとなった。
堅調な北米に次ぐ成長市場と位置付けるヨーロッパや、今後の発展が期待される南米市場にも力を入れる。当社の製品は、アメリカ、アジア、ヨーロッパ、南米にある8つの海外工場から、100ヵ国以上に出荷されている。直近では、ウィスコンシン州に米国3ヵ所目のしょうゆ工場を建設しており、26年秋に稼働を始める予定としている。
北米や欧州のしょうゆ事業は値上げによる影響が一巡し始めるため、販促などに積極的に投資を実施していく方針で、販売数量の改善が期待できそうだ。
サンリオ(8136プライム)
キャラクター関連ビジネス大手
根強い人気を持つ「ハローキティ」を筆頭に、「マイメロディ」や「シナモロール」などオリジナルキャラクターを多数開発し、世界でライセンスビジネスを推進する。キャラクターグッズを販売するサンリオショップを全国に展開しており、東京都と大分県でテーマパークを運営している。
次期中期経営計画に注目
24/3期3Q累計決算は、前年同期比40%増収、同2倍営業増益で着地。国内の店舗・テーマパークは、国内客および外国人観光客が大幅に伸長したほか、国内外のライセンス事業で複数キャラクター戦略が奏功し、売上高が増加した。加えて、構造改革を通じて収益性が向上したことも寄与した。
現行の中期経営計画は、24/3期をもって最終年度を迎える。会社側は、次期中期経営計画を再成長の3年としているほか、向こう10年の目標を時価総額1兆円、営業利益500億円(24/3期予想は268億円)としており、今後の成長戦略が期待できよう。
株主還元では、「ハローキティ」50周年の記念配も含め、24/3期の年間配当は1株65円(前期比30円増)を見込む。積極的な株主還元姿勢は今後も続く見通しだ。
カプコン(9697プライム)
ゲームソフト大手
他社版権に依存しないオリジナルの家庭用ゲームソフトなどを開発しており、デジタルコンテンツ事業(家庭用ゲームなど)が売上構成の約8割を占める。格闘やアクション系に強く、ミリオンセールスタイトル数は116タイトルに及ぶ(2023年12月末時点)。
代表作は「バイオハザード」や「モンスターハンター」、「ストリートファイター」など。2023年9月に、米Niantic社とスマートフォン向けの位置情報ゲーム「モンスターハンターNow」の配信を開始した。
IPの価値を最大限に活用
当社は、保有する人気コンテンツ(IP)を複数のゲームプラットフォームの他、映画や舞台などゲーム以外のメディアにも積極的に活用する「ワンコンテンツ・マルチユース戦略」を展開。IPを有効活用することで、ブランド力の向上を実現しているほか、リスクを分散し、収益を幾重にも享受できる事業ポートフォリオを構築している。
24/3期4Qに「ドラゴンズドグマ2」を発売した。そして2025年にはシリーズ累計9,700万本の「モンスターハンター」の最新作「モンスターハンターワイルズ」が発売予定だ。豊富なIPを武器とした新作・旧作両方の販売増加を追い風に、今後も中長期的な経営目標である「毎期10%以上の営業増益」達成が見込めよう。
出所:会社資料作成:岡三証券
コムキャスト A(CMCSA米国株)
エンタメ界で異彩を放つメディアの雄
世界的なメディア企業で、ブロードバンド、ワイヤレス等を通じたビデオ、有線音声サービス等を米国、英国、イタリアで展開するほか(コネクティビティ&プラットフォーム事業)、エンターテインメント、スポーツ、ニュース等のコンテンツの配信やユニバーサル・スタジオ等に代表されるテーマパークを展開する(コンテンツ&エクスペリエンス事業)。
テーマパークや映画が好調
23/12期4Q決算は、売上高が前年同期比2%増の313億ドル、調整後EPSが同2%増の0.84ドルとなった。事業別の売上高は、コンテンツ&エクスペリエンス事業が同6%増と堅調に推移し、なかでもテーマパークが同12%増と好調だった。ハリウッドの「スーパー・ニンテンドー・ワールド」に支えられており、このセグメントの調整後EBITDA(利払前・税引前・減価償却前利益)も同12%増となった。
なお、2023年には、「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」などのヒットにより、傘下のユニバーサル・ピクチャーズが世界の映画興行収入でトップとなり、2015年以来初めてディズニーを逆転。スタジオセグメントの業績も好調だ。2023年11月には、懸念材料であったハリウッドの俳優組合のストライキも収束している。事業環境の改善により、業績拡大に向けたハードルも下がっており、当社株が上値を追う余地もあろう。
ネットフリックス(NFLX米国株)
ネット動画配信サービス世界最大手
テレビ番組や映画を190以上の国・地域でネット配信する。CATV(ケーブルテレビ)より安い料金と、PC・モバイル等の複数端末で視聴可能な利便性で市場を開拓している。自社制作ドラマに強みを持つ。ビジネスモデルの再編に取り組んでおり、米国や日本などで、広告付き低価格プランを2022年11月から導入した。加えて、料金を支払わずに視聴する「アカウント共有世帯」の収益化に向け、2023年から有料共有サービスの導入地域を拡大している。
IP経済圏の構築に期待
23/12期4Qの全世界の有料会員数は1,312万人増と、市場予想の897万人増を大幅に上回った。米プロレス団体ワールド・レスリング・エンターテインメント(WWE)の配信権を獲得し、新たにライブ中継に本格参入する。また、近年では、人気漫画の「ONE PIECE」や「幽☆遊☆白書」の実写化を手がけ、配信している。世界で日本のアニメ人気が高まる中、こうしたアニメコンテンツの拡充は新規会員の更なる獲得に繋がろう。
加えて、英酒類大手のディアジオと提携し、人気ドラマ「ブリジャートン家」に基づいたカクテルキットを発売するなど、衣料品や飲料など様々な消費者向け商品にIP(知的財産)の使用権を与えている。映画やテレビのコンテンツ、ゲーム、グッズなどIPを軸にした包括的な経済圏を構築できれば、より安定した業績拡大が期待できよう。