日本経済
マイナスの需給ギャップでインフレは鈍化が続く見込み
2024年度の日本経済は、賃金と物価の好循環が続き、利上げを続ける経済環境が整うかが焦点となるだろう。課題の一つはインフレであり、消費者物価(CPI)が持続的・安定的に2%の上昇率を達成、もしくは見込まれるかが重要となる。全体のCPIやコアは、ガソリン補助金など政府による経済対策の終了などでテクニカル的に上振れる可能性はあるものの、生鮮食品・エネルギーを除いたコアコアベースでは、今後も輸入物価の下押しと軟調な国内需要を受けて緩やかに鈍化していく見通しである。需給ギャップはマイナスの状態が続く可能性が高く、需要主導でのインフレ圧力の高まりは見込みにくいだろう。労働市場は、失業率の低下が続く一方で、高水準とはいえ求人倍率が悪化基調にあり、賃金上昇に繋がる労働需給の逼迫が起きている状況とは言えないだろう。
賃金は、実質賃金の動向が日銀の政策的には注視されるだろう。今年の春闘が第1回回答集計で5%超になるなど、名目賃金の上昇機運は高まっている。基本的に、名目賃金はインフレ率にやや遅行することを踏まえると、今後インフレ鈍化が進めば、一時的でも実質賃金がプラスに転換する可能性はあるだろう。しかし、本質的には、家計消費や景気が上向くためには、実質賃金がプラスになるだけでなく、税金や社会保障費を差し引いた可処分所得が押し上げられ、先々の期待が上向く状況が必要であると考える。
設備投資の押し上げには緩和的な金融環境の維持が必要
景気全体としては、回復基調にある企業の設備投資の先行きが重要となるだろう。これまでのインフレ環境や、緩和的な金融環境を受け、企業の設備投資意欲は維持されていると見られ、今後も増加が続けば、所得拡大に繋がる可能性があるだろう。一方で、設備稼働率や生産動向は低調であるなど弱い材料も続いており、足元で依然企業貯蓄率がプラスである状況と整合的である。今後、欧米の生産活動がさらに鈍る可能性がある中でも回復を続けるためには、緩和的な金融環境の維持が必要であろう。足元で資金繰り判断や銀行の貸し出し態度は依然緩和的であると言えるものの、マイナス金利の解除が、どの程度金融環境に影響を与えるかが注目される。家計消費は、可処分所得や先々の期待が重要である点を踏まえると、6月に予定される所得税の定額減税は一定の消費下支え効果があると考えられる。しかし、減税措置が一回限りであることなどを踏まえると、2020年に支給された1人10万円の特別定額給付金との比較では、消費の押し上げ効果は限定的となり、持続性は期待できないだろう。
以上を踏まえ、我々が想定する欧米の今後の景気減速による外需落ち込みも考慮すると、日本の経済成長速度は緩やかになることが予想される。そのため、日銀による継続的な利上げを可能とする環境は、マクロ面では当面見込みにくいことが考えられる。
グレーの網掛けは景気後退期
グレーの網掛けは景気後退期
米国経済
インフレ鈍化ペースが引き続き焦点に
2024年度の米国経済は、インフレの鈍化が続き、FRBが利下げを開始する環境が整うかが焦点となるだろう。足元の消費者物価は、堅調な消費需要を背景に、主にサービス価格で高水準の伸びが続いている。全体のインフレ率は、ウェイトの高い「住居」が主導し、2025年にかけて鈍化が続いていくのがベースラインシナリオではあるものの、高水準の成長が続けば、鈍化ペースは緩やかになるリスクが考えられる。現時点では、FRBや市場の見通しは2024年に75bpの利下げを想定しているものの、インフレ率の鈍化が遅れれば、利下げ開始時期の後退や回数の減少することが考えられる。インフレ鈍化以外の利下げ要因としては、引き続き雇用環境が重要となる。これまでの就業者数の増加と実質賃金の負担の高まりともに、雇用需要は減少傾向にあると考えられる。構造的な人手不足がこれまでの失業率を低位で抑えてきたと考えられるものの、雇用の悪化は緩やかながら続くと予想する。また、求人件数の減少に合わせ、名目賃金の伸び率も低下が続く見込みである。インフレの鈍化が示され、雇用増加ペースが緩やかとなっていることが想定される6月会合から、利下げが開始されると我々は予想する。
市場見通しは3月21日時点、数値は誘導目標の中央値
黒線はFRBのドットチャートで示された年末時点のFF金利
設備投資と個人消費は減速に向かう見込み
足元まで経済全体を大きく押し上げている個人消費は、堅調な雇用や資産価格の上昇、そして政府財政の拡大が支えてきたと考える。しかし、今後、賃金伸び率の鈍化や失業者数の増加により、消費の伸びが減速することが見込まれる。利払い負担の増加により、クレジットカードや自動車ローンの延滞率が悪化傾向にあることを踏まえると、借り入れによる一層の消費加速の余地は限定的であろう。
企業の生産活動は、製造業を中心に減速している。銀行の貸し出し態度の厳格化などを背景に、設備投資も低い伸びが続いている。今後も引き締め的な金融政策や、労働コストの増加が続き、海外需要が引き続き弱い中では、需要の強い伸びは見込みにくいだろう。11月に控えている大統領選挙や、膠着している議会など、政治の不透明性もマイナス要因となり得る。
グレーの網掛けは景気後退期
3四半期移動平均グレーの網掛けは景気後退期
中国経済
中国経済は政策対応の拡充を受けてマイルドな回復基調が続く
2024年の中国経済はマクロ経済政策の拡充と民間需要の改善などを受けてマイルドな景気回復を維持する見通し。本年3月に開催された全人代では経済成長率目標が前年と同じ「5%前後」に設定されたが、李強首相は目標達成は容易ではないとして昨年以上に政策対応に注力する姿勢を示した。
今年の政策運営としては、財政政策で特別国債の活用などにより公共事業を拡充する計画が示されたほか、金融政策も機動的かつ効果的運営を目指す方針が掲げられ、年初から預金準備率や5年物最優遇貸出金利の引き下げが相次いで実施されている。今年は資本市場の安定化も政策目標に追加され、旧正月前から株式市場の底上げを促す取り組みが強化されている。加えて、自動車、電子製品といった耐久消費財の買い替えや企業の設備更新投資を促進して内需を活性化する施策も強化される見通し。
19~23年は実績値、24年は目標値
2024年1~2月時点
民需の改善等を背景に製造セクターの回復が進展
中国経済は昨年前半に不動産市場の悪化などにより景気回復の勢いが鈍化したが、年後半には生産、消費の改善が進み、通年の実質GDP成長率は年初目標を上回る5.2%で着地した。
本年入り後の経済指標(1~2月)をみると、製造業設備投資が高い伸びを示すなど民間投資の改善がみられるほか、インフラ建設も底堅く推移している。個人消費も自動車などの耐久財消費の改善を受けて緩やかな回復基調を維持している。こうした需要面の改善を背景に製造セクターの回復の足取りも一段と強まっている。
今後も中国経済は景気対策の追い風を受けてマイルドな回復が続く見込みながら、不動産市場の低迷が長引く可能性なども考慮し、今年の経済成長率見通しは+4.8%前後と予想する。
2024年2月時点
2024年2月時点
為替相場
2024年は欧米中銀の利下げで円高基調が続くと予想
2024年度は6月以降に欧米で利下げ開始が決定されるとみる。また、年後半は欧米経済に減速感が強まる見通しであり、為替市場では対ドル、対ユーロで円高基調は強まるだろう。また、足元の投機筋の円売りポジション(ネット)は高水準であり、今後はポジション解消による円高圧力の高まりも想定される。
なお、現状では国内のインフレ期待に高まりはみられないが、想定以上に日本経済が持ち直しインフレ圧力が高まるのならば、日銀の追加利上げの思惑がさらなる円買いの材料になるため注意したい。
3月21日現在
債券(日本)
24年9月末にかけて利回りは緩やかに低下すると予想
今後国内の物価上昇圧力が弱まり、米国経済の減速感が強まっていく見込みであることから、日銀は現状の金融政策を継続する見通し。24年度は日銀が追加利上げに慎重な姿勢を続ける中、米国で景気減速感が強まり、内外の債券需要は回復すると予想。一方、日銀の国債買入れは減額されていく見込みであることから金利低下は緩やかなものになると見込む。10年国債利回りは24年9月末に0.75%に低下すると予想。
(政策金利は無担保コールレート(翌日物)の誘導目標水準)
実線は20年3月から24年3月までの月末値(3月は21日時点)、点線は当社予想
債券(米国)
24年9月末にかけて利回りは低下すると予想
米国の24年の金融政策は、景況感の悪化とインフレ鈍化により、今年6月から利下げに転じると予想。24年に入っても米国で明確に景気減速感が強まらず、インフレ圧力の鈍化も緩やかなものに留まっていることから、当面は市場の利下げ期待が高まりづらい状況が続くとみる。しかし、今年後半には市場で利下げ期待が高まり、米国債利回りに低下圧力がかかるとみる。米10年国債利回りは24年9月末に3.75%程度に低下すると予想する。
(短期政策金利は、フェデラルファンドレートの誘導目標水準)
実線は20年4月から24年3月までの月末値(3月は21日時点)、点線は当社予想
日本株式
2024年度はボックス相場となろう
日本株式市場は、2025年3月末のTOPIXを2,700ポイント、日経平均株価を37,800円と予想する。年始から、海外投資家の先物買いと現物買いが足並みを揃えてきたが、先物買いの一服により、両株価指数が強く上昇する局面は一巡したと判断する。
年明け以降も、TOPIXの2024年度予想EPS(I/B/E/Sコンセンサス)の上方修正が継続している。堅調な米景気や円安進行等が好感されていると推察されるものの、製造業の生産回復が緩慢であること等を踏まえると、2024年度の予想EPSは、3月本決算発表後、下方修正傾向へ転じると判断する。EPSモメンタム(12ヵ月先EPSの前四半期比)の鈍化を先取りする形で、PER(12ヵ月先ベース)は14倍程度へ低下していくと見ている。
3月21日時点
内需セクターに相対的な安心感
NT倍率は、AI関連需要の成長期待の高まりを背景とした半導体製造装置企業の株価急騰等により、一時14.8倍(2024年3月4日)へ上昇したが、一旦ピークアウトしたと見ている。AI関連需要に対する高い将来期待は当面維持される公算が大きいものの、NT倍率との連動性が観察される海外投資家の日経平均先物の買い越しが一服している。年始から、海外投資家の先物買いと現物買いが足並みを揃えてきたが、先物買いの一服により、株価指数が強く上昇する局面は一巡したと判断している。大型株の上昇が一服すると見込まれるなか、中小型株がキャッチアップする展開を想定する。また、米国の利下げ転換を控え、為替相場にはドル安円高圧力が掛かると考えられるため、内需セクターに相対的な安心感があると見ている。
3月21日時点
3月21日時点
米国株式
2024年度前半は上値が重く、後半に高値更新の展開を予想
2024年度末のS&P500を5,370ポイント、NYダウを42,100ドルと予想。2024年度前半の米国株式市場は、上値が重いと見るものの、後半は高値更新の展開を予想する。1~3月の米国株式市場は、大手IT企業の良好な業績やFRBの利下げ期待の高まりを背景に、S&P500、NYダウ共に最高値を更新する展開となっている。ただ、S&P500のPER(12ヵ月先ベース)は21倍に達しており、利下げ期待の多くが織り込み済みとなっている可能性があろう。
3月21日時点
株式市場の関心は、業績が相対的に苦戦してきた企業へ向かうだろう
S&P500は、主要テック企業(通称「マグニフィセント・セブン」:アップル、アマゾン、アルファベット、メタ、マイクルソフト、テスラ、エヌビディアの7社)への業績依存度を強めている。S&P500採用企業の純利益を、主要テック企業と、それ以外の企業に分けると、主要テック企業の純利益は、2023年第2四半期から3四半期連続で前年同期比増益となったのに対し、それ以外の企業は、2023年第1四半期から4四半期連続で減益だった。
2024年4~6月の株式市場は、FRBの利下げ開始も、好材料出尽くしの展開になると見ている。2024年度末に向けては、FRBの利下げ加速や大統領選挙通過による先行き不透明感の払拭を好感する形で堅調に推移しよう。株式市場の関心は、金融引き締め的な環境で業績が相対的に苦戦してきた企業へ向かうことが予想され、主要テック企業の株価は相対的に出遅れる展開となろう。S&P500は、NYダウにアンダーパフォームすると見ている。
3月21日時点
赤は大統領選挙翌年
香港株式
香港株は下値を切り上げる展開へ ~見直し買いが支えに~
2024年度の香港株式相場は、下値を切り上げる展開を想定する。中国の各種支援策への期待から投資家心理はやや回復している。23/12期決算発表を経て、企業業績の見通しも改善傾向にある。歴史的割安水準にある優良株への見直し買いが相場を支えよう。他方、中国景気の先行き不安や米中対立激化への警戒感は根強く、戻り売りが上値を抑えそうだ。
物色面では、産業支援策や買い替え促進策が追い風となる新エネルギー車や家電のほか、「走出去(海外で稼ぐ)」関連銘柄、高コスパ商品・サービス関連銘柄に注目したい。
3月21日現在
作成:岡三証券
3月15日現在