6.移動平均線

6.移動平均線

トレンドを分析する上で、トレンドラインを用いた分析方法は主観的で人によってまちまちである。また、トレンドの変化に対する見極めはなかなか難しい。この点を補うために広く利用されているのが「移動平均線」である。これは、ジグザグに変動する足取りをなめらかに表すことで、本来の時系列の変動特性を見やすくするための方法である。

移動平均線の書き方

表6-1 移動平均の計算例

移動平均線を書くには、まず一定期間における移動平均値(以下、平均値)を算出する。計賞式は単純であり、表6-1にドル円の終値を用いて5日間の平均値を計算した例を示した。

図6-1 ドル/円日足

まず4月20日から4月24日までの平均値107.628円(N1)と4月21日から4月27日までの平均値107.555円(N2)を結ぶ。同様にしてN3、N4を結んでいくと図6-1の5日間の移動平均線ができ上がる。

図6-2 豪ドル/ドル日足

移動平均線の利用法としては、図6-2のように短期間の平均線だけでなく、より長期のものをチャート上に併記する方法が用いられる。これは目先的な流れに変化があっても、より長い目で見た場合の変化を伴うものかどうかを探るためである。

ただ、短期・中期・長期の日数をそれぞれどの程度に設定すればよいかとなると、決まった数字があるわけではないが、一般的には過去の経験を踏まえて適正だと思われる日数が利用されている。

例えば、為替市場の場合は、日足チャートには5日間と21日間、株式の場合は日足チャートには5日間と25日間、週足なら13週と26週の移動平均線を用いる人が多い。

グランビルの法則

移動平均線を用いた具体的な売買判断の方法としては、米国のチャート分析家であるJ.E.グランビルによるグランビルの法則が有名である。

この法則は、相場(値段)と移動平均線の位置関係に着目したもので、売り・買いのポイントが8つの段階にまとめられている(図6-3)。

図6-3 グランビルの法則

買い信号①
移動平均線が下降を続けた後に、横ばい、もしくは上向きかけている状態で、日足が移動平均線を上抜いたとき。
買い信号②
移動平均線が上昇しているときに、相場が移動平均線を下回った場合。
買い信号③
上昇中の移動平均線に向かって相場が上方から下降してきたが、移動平均線を割り込むことなく再度上昇に転じたとき。
買い信号④
下降局面において下降しつつある移動平均線から、相場が大きくかけ離れて下落した場合(短期的な自律反騰が期待できる)。

以上が買いのポイント。

売り信号①
移動平均線が長期上昇の後で横ばい、もしくは下降を開始し、相場が移動平均線から下放れたとき。
売り信号②
移動平均線が下降中に、相場がこれを上回ったとき。
売り信号③
下降中の移動平均線に向かって、相場が下方から上げてきても、突破せずに再び反落したとき。
売り信号④
移動平均線が上昇中であっても、相場が大きくかけ離れて高騰したとき(短期的な自律修正の可能性が高い)。

さて、これら8通りの法則について重要度と信頼性の高さについて少し考えてみたい。
まずは、売りでも買いでも信号①が最も重要である。その理由は、この2つが転換点を示すもので、大相場のスタート地点ともなりうるからである。仕掛けのタイミングとして見逃せない。

信号②と③は押し目買い、または戻り売りのポイントである。①と比べると、仕掛け時としては出遅れた格好になるため、利益の深追いはせず、利食い場を早めに探す必要がある。また、仕掛けた後すぐに思惑とは逆に動いたときは、トレンド(移動平均線)も反転する可能性が高くなるので、見切りの決断も早急に行わなければならない。

信号④は相場の行き過ぎ(移動平均線との端)に対する売買手法である。しかし、もうはまだなりとの格言があるほど意外な上伸・深押しをすることもあるので、急騰・急落に逆向かいする覚悟と資金力がある人は別として、新規に仕掛けるのは避け、利の乗った玉の利食い場面と割り切る方がよいだろう。

さて、ここで注意しておきたいのは、実際には図6-3のような順番通りに動くとは限らないということである。例えば、買い信号①の次に、早くも売り信号①が現れるということもありうる。逆もまたしかりである。

ゴールデン・クロスとデッド・クロス

図6-4 ゴールデン・クロスとデッド・クロス

値段と移動平均線の関係同様、短期の移動平均線と中・長期の移動平均線との関係にも注目したい。特に、下降局面を経て、低迷する長期線の上方へ短期線が抜け出たとき(ゴールデン・クロス)と、上昇後の短期線が長期線を下向きに突破したとき(デッド・クロス)が重要である(図6-4、図6-2)。

前者は、大勢が下値指向から上昇指向へ変わったことを確認するポイントである。これは、グランビルの法則の買い信号①と同じ考え方だが、移動平均線の動きは相場を追いかける形となり、また、中・長期の移動平均線はさらに遅れるという性質から、転換点の遅行指標としての意味を持つのである。同様にデッド・クロスは上昇基調から下降基調への転換の遅行指標となる。

移動平均乖離率

移動平均線を使って売買のタイミングを計る場合、値段と移動平均線の位置関係が重要となる。この際、よく使われるのが、移動平均乖離である。

計算式

移動平均乖離率(%)=(値段-移動平均値)/移動平均値×100

図6-5 ドル/円日足と移動平均線乖離率

%で表示され、値段が移動平均値より上にある場合はプラス何%、値段が移動平均値より下にある場合はマイナス何%となる。

グランビルの買い信号④、売り信号④のように、相場の行き過ぎから修正局面を取りに行く場合に、移動平均乖離率を使うことができる。

移動平均乖離率バンド(エンベロープ)

図6-6 ユーロ/円日足とエンベロープ

移動平均乖離率バンドはエンベロープとも呼ばれる。移動平均線から上下に一定の率で乖離させた線を描いた帯域(バンド)であり、価格が移動平均線からどの程度離れたかを見るために用いる。

値動きは、移動平均線に対し、一定の乖離率内で推移することが多く、エンベロープの上限・下限に接近、もしくは突破すると、移動平均線に戻って来ることがあるので、相場の反転のポイントとして売買サインに用いたり、支持・抵抗の目安として用いる。なお、強いトレンドが発生すると、エンベロープから大きく乖離することがある。

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