岸田新首相就任で海外投資家は買い越しに転じるか−海外投資家は新首相の改革期待のバロメーター【高田レポート】

10/13(水)08:55

岡三グローバル・リサーチ・センター理事長
エグゼクティブエコノミスト 高田 創

アベノミクス以降、新政権と海外投資家


岸田新内閣が発足した。アベノミクス以降、これまで海外投資家は新政権の発足当初は改革期待を背景に日本株を買い越してきた。



下図はアベノミクスが始まって以来の海外投資家の買い越し累計額の推移である。ピークとなった2015年半ばまで海外投資家の買い越し額は約20兆円に達し、アベノミクス前期は海外投資家の日本株買いが日本株上昇を支えた。一方、アベノミクス後期は海外投資家の傾向的な売り越しが続いた。特に、2020年、コロナショック以降は一段と売りが加速し、年初から累積6兆円近い売り越しで、アベノミクス以降の累計買い越し額が殆どなくなる水準にまで達していた。



2020年9月の菅政権誕生後は再び買い越しに転じた。アベノミクス以降の日本株ポジションを殆ど売り尽くしてしまった反動という側面もあった。こうしたなか、今後は岸田新首相に対する海外投資家のスタンスが注目される。



海外投資家の日本株買い越し累計額の推移(現物)




「構造改革」への期待が強い海外投資家


今から8年前、安倍政権発足当初に筆者が海外投資家に「アベノミクス3本の矢」の説明を行った際、海外投資家は3本目の矢、成長戦略に関する関心が高いのが印象的だった。また、日本と海外の受け止め方が異なっていたことも注目された。「成長戦略」を日本では一般的に「growth strategy」と訳すことが多かったが、海外では基本的に「structural reform」(構造改革)として意識され、日本のそれまでの沈滞したイメージからの転換を海外投資家は期待したのだ。



アベノミクスは当初、「成長戦略」として内外に変化をアピールして期待を高めることに成功したが、2015年9月以降の後半では、「新3本の矢」で事実上、構造改革はメニューから外され、成長戦略が「掛け声倒れ」の状態に向かっていった。具体的な構造改革に関するメニューが不足し、日本に対する海外からの評価が低下しやすかった。海外投資家は「新3本の矢」により成長戦略が変質してしまったことで、日本が変わるとのメッセージが後退したと感じたと考えられる。



2020年9月以降、改革期待で海外投資家は買い越しに転換


以下の図表は週間の海外投資家の売買動向(現物)であるが、菅政権誕生後の2020年9月以降、海外投資家は買い越しに転じたことを示している。アベノミクスによって、日本の株式市場はバブル崩壊後の「雪の世界」から戻りつつあったが、海外投資家は日本株に対する見方を変えず、アンダーウェイトとなっていたなかでの買い戻しであった。



また、2020年11月のタイミングは、米大統領選という大きな不確定要因が解消されたことによる待機資金のリスク資産への回帰、日本株を売りすぎていた海外投資家の見直し買いもあったと考えられる。そのほか、菅政権が示したデジタル庁設置、脱炭素社会に向かう動き等もあり、構造改革につながると評価された面もあった。



もっとも、2021年4月以降は日本の政治不安などが強まり売り越し基調が続いた。菅政権の改革期待を受けた海外投資家の買いが短期間で止まったのは、ワクチン接種の遅れに伴う日本へのアロケーション縮小に加え、政治不安により改革遂行が困難との見方もあったとみられる。



海外投資家の日本株買い越し状況の推移(現物)




海外投資家の保有比率は最大


以下の図表は主な投資主体別の日本株保有比率の推移である。最大保有主体は海外投資家であるだけに、株式市場での影響力の強さが注目される



投資部門別株式保有比率の推移




日銀のETF買いスタンスは変わったが大きな変動は回避


2015年以降、海外投資家は売り越しにあったが、その間、以下の図表に示されるように、日銀のETF買いが海外投資家の売りを吸収してきた。日銀は2021年3月の点検作業以降、ETF買い入れの方針を転換し、現在2%近い下落がある場合に限り購入を行う傾向にある。



もっとも、昨年の段階でアベノミクス相場前期の買い越し分を売り尽くした海外投資家はこれ以上日本株をアンダーウェイトしにくい状況にあったとみられる。したがって、日銀のETF買いスタンスが転換しても、大きな変動が生じにくい状況になったと考えられる。



日銀のETF買入と海外投資家の売買累計額




ワクチン接種状況は国際分散投資のバロメーター、日米逆転に


以下の図表に示されるように、世界的にワクチンの接種状況と株式市場は一定の連動性があり、日本株の2021年春以降の停滞は他国と比べたワクチン接種の遅れが一因と考えられる。グローバルに国際分散投資を行う投資家がアセットアロケーションを行う上で、ワクチン接種の進捗度に応じて経済の回復や株式市場の行方を占ったとみられる。同様にIMF等の国際機関による経済成長見通しも、ワクチン接種の遅れで下方修正が行われ、その結果、日本売りが生じやすかった。足元、日本のワクチン接種回数が米国を上回るなか、日本株の買い戻しも生じ得る状況にある。



国別:株価指数とワクチン接種回数(100人当たり)の推移




岸田新首相は海外投資家の期待を繋ぎとめることができるか


2012年末の安倍政権と2020年の菅政権発足後はともに海外投資家の買い越しが株式市場を支えた。安倍政権では2年半、菅政権は半年の買い越しトレンドが生じたが、その後、海外投資家は売り越しに転じた。岸田新政権はどうか。海外投資家の買い越しは、新首相への改革期待値の高さを表すバロメーター、リトマス試験紙でもある。



今後、新政権としては、コロナ対策も含めた医療産業への注力など、成長戦略・構造改革を完遂すべく、強いメッセージを発することが重要だ。それにより、海外投資家の関心を引き付けることが可能となる。



岸田新政権の成功のカギも、海外投資家に理解されやすい構造改革に関するメッセージや具体的メニューを示すことにある。その観点では、残念ながら改革よりも現状維持、分配に注目が集まり、プロビジネスのイメージが薄れているようにもみえる。こうした点が、新首相誕生以来、海外投資家中心に売りが続く理由になっている。また、金融所得課税の強化を示唆したことも脱資産デフレのイメージを損なうものになっている。金融所得課税強化を事実上断念したのは、政治の動きに対し株式市場が「NO」の姿勢を示したものとして注目される。



日本企業はバランスシートを中心に財務状況が大きく改善しており、事業構造改革が行われれば投資が拡大、資本の好循環が生じる可能性もある。海外投資家の追い風があれば日本株の底上げも生じ得る状況にあるだけに、今後の岸田政権の改革に向けた姿勢に注目していきたい。



全文は、以下のPDF版レポートでご覧いただけます。

この記事の全文はこちら

重要な注意事項

免責事項

  • 本レポートは、投資判断の参考となる情報提供のみを目的として作成されたものであり、個々の投資家の特定の投資目的、または要望を考慮しているものではありません。また、過去の実績は必ずしも将来の成果を示唆するものではありません。投資に関する最終決定は投資家ご自身の判断と責任でなされるようお願いします。
  • 本レポートは、岡三証券が信頼できると判断した情報源からの情報に基づいて作成されたものですが、その情報の正確性、安全性を保証するものではありません。企業が過去の業績を訂正する等により、過去に言及した数値等を修正することがありますが、岡三証券がその責を負うものではありません。
  • また、本レポートに記された意見や予測等は、レポート作成時点での岡三証券の判断であり、今後予告なしに変更されることがあります。なお、本レポートは,日本証券業協会「アナリスト・レポートの取扱い等に関する規則」のアナリスト・レポートとして審査されたものです。
  • 岡三証券及びその関係会社、役職員が、本レポートに記されている有価証券について、自己売買または委託売買取引を行う場合があります。岡三証券の大量保有報告書の提出状況については、岡三証券のホームページ(https://www.okasan.co.jp/)をご参照ください。

開示事項

岡三証券株式会社の社外取締役1名が、三菱地所株式会社の社外取締役を兼任しています。

本レポートにおける個別銘柄に関する注意事項

  • 株価は日付日の終値。52週高値・安値は権利落ち修正後で、各取引所の立会市場の売買立会時(前場・後場)における約定値段を用いています。
  • 上場市場は東京証券取引所の場合、記載せず、複数市場上場の場合は売買高の多い市場を記載しています。
  • TOPIX、時価総額など、特に日付を記載していない場合は、個別銘柄の株価日付と同じです。
  • PBRの根拠となるBPSは会社公表数値を用いていますが、必要に応じて岡三証券が算出しています。
  • ROEの根拠となる自己資本は必要に応じて純資産から新株予約権と非支配(株主)持分の金額を控除した金額を用いています。
  • 予想EPSは当期利益を発行済株式数で除して計算しています。なお、払い込み前の公募、権利落ち前の株式分割等は考慮しておりません。
  • 時価総額は株価と発行済株式数で計算しています。
  • 発行済株式数は、会社公表の数値(自己株式を除く)あるいは、平均発行済株式数を原則として用いておりますが、株式分割、公募増資、自己株買入れなど必要に応じて岡三証券の推定による計算値を用いる場合があります。
  • 日本基準の連結当期利益は、親会社株主に帰属する当期純利益です。
  • 米国会計基準の当期利益は、当社株主に帰属する当期純利益です。
  • 国際会計基準(IFRS)の当期利益は、親会社の所有者に帰属する当期利益です。

地域別の開示事項

日本:

金融商品は、個別の金融商品ごとに、ご負担いただく手数料等の費用やリスクの内容や性質が異なります。金融商品取引のご契約にあたっては、あらかじめ当該契約の「契約締結前交付書面」(もしくは目論見書及びその補完書面)または「上場有価証券等書面」の内容を十分にお読みいただき、ご理解いただいたうえでご契約ください。

<有価証券や金銭のお預りについて>

株式、優先出資証券等を当社の口座へお預けになる場合は、1年間に3,300円(税込み)の口座管理料をいただきます。加えて外国証券をお預けの場合には、1年間に3,300円(税込み)の口座管理料をいただきます。ただし、当社が定める条件を満たした場合は当該口座管理料を無料といたします。
なお、上記以外の有価証券や金銭のお預りについては料金をいただきません。さらに、証券保管振替機構を通じて他社へ株式等を口座振替する場合には、口座振替する数量に応じて、1銘柄あたり6,600円(税込み)を上限として口座振替手続料をいただきます。
お取引にあたっては「金銭・有価証券の預託、記帳及び振替に関する契約のご説明」の内容を十分にお読みいただき、ご理解いただいたうえでご契約ください。

<株式>
  • 株式(株式・ETF・J-REITなど)の売買取引には、約定代金(単価×数量)に対し、最大1.265%(税込み)(手数料金額が2,750円を下回った場合は2,750円(税込み))の売買手数料をいただきます。ただし、株式累積投資は一律1.265%(税込み)の売買手数料となります。国内株式を募集等により購入いただく場合は、購入対価のみをお支払いいただきます。
  • 外国株式の海外委託取引には、約定代金に対し、最大1.375%(税込み)の売買手数料をいただきます。外国株式の国内店頭(仕切り)取引では、お客様の購入および売却の単価を当社が提示します。この場合、約定代金に対し、別途の手数料および諸費用はかかりません。
    ※外国証券の外国取引にあたっては、外国金融商品市場等における売買手数料および公租公課その他の賦課金が発生します(外国取引に係る現地諸費用の額は、その時々の市場状況、現地情勢等に応じて決定されますので、その合計金額等をあらかじめ記載することはできません)。外国株式を募集等により購入いただく場合は、購入対価のみをお支払いいただきます。
  • 株式は、株式相場、金利水準、為替相場、不動産相場、商品相場等の変動による株価の変動によって損失が生じるおそれがあります。
  • 株式は、発行体やその他の者の経営・財務状況の変化およびそれらに関する外部評価の変化等により、株価が変動することによって損失が生じるおそれがあります。
  • また、外国株式については、為替相場の変動によって、売却後に円換算した場合の額が下落することによって損失が生じるおそれがあります。
  • REITは、運用する不動産の価格や収益力の変動、発行者である投資法人の経営・財務状況の変化およびそれらに関する外部評価の変化等により価格や分配金が変動し、損失が生じるおそれがあります。
<債券>
  • 債券を募集・売出し等により、または当社との相対取引により購入いただく場合は、購入対価のみをお支払いいただきます。
  • 債券は、金利水準、株式相場、為替相場、不動産相場、商品相場等の変動による債券価格の変動によって損失が生じるおそれがあります。
  • 債券は、発行体やその他の者の経営・財務状況の変化およびそれらに関する外部評価の変化等により、債券価格が変動することによって損失が発生するおそれがあり、また、元本や利子の支払いの停滞もしくは支払い不能の発生または特約による元本の削減等のおそれがあります。
  • 金融機関が発行する債券は、信用状況の悪化により本拠所在地国の破綻処理制度が適用され、債権順位に従って元本や利子の削減や株式への転換等が行われる可能性があります。ただし、適用される制度は発行体の本拠所在地国により異なり、また今後変更される可能性があります。
<個人向け国債>
  • 個人向け国債を募集により購入いただく場合は、購入対価のみをお支払いいただきます。個人向け国債を中途換金する際は、次の計算によって算出される中途換金調整額が、売却される額面金額に経過利子を加えた金額より差し引かれます(直前2回分の各利子(税引前)相当額×0.79685)。
  • 個人向け国債は、安全性の高い金融商品でありますが、発行体である日本国政府の信用状況の悪化等により、元本や利子の支払いが滞ったり、支払い不能が生じるおそれがあります。
<転換社債型新株予約権付社債(転換社債)>

国内市場上場転換社債の売買取引には、約定代金に対し、最大1.10%(税込み)(手数料金額が2,750円を下回った場合は2,750円(税込み))の売買手数料をいただきます。転換社債を募集等によりご購入いただく場合は、購入対価のみをお支払いいただきます。転換社債は転換もしくは新株予約権の行使対象株式の価格下落や金利変動等による転換社債価格の下落により損失が生じるおそれがあります。また、外貨建て転換社債は、為替相場の変動等により損失が生じるおそれがあります。

<投資信託>
  • 投資信託のお申込みにあたっては、銘柄ごとに設定された費用をご負担いただきます。
    お申込時に直接ご負担いただく費用:お申込手数料(お申込金額に対して最大3.85%(税込み))
    保有期間中に間接的にご負担いただく費用:信託報酬(信託財産の純資産総額に対して最大年率2.254%(税込み))
    換金時に直接ご負担いただく費用:信託財産留保金(換金時に適用される基準価額に対して最大0.5%)
    その他の費用:監査報酬、有価証券等の売買にかかる手数料、資産を外国で保管する場合の費用等が必要となり、商品ごとに費用は異なります。お客様にご負担いただく費用の総額は、投資信託を保有される期間等に応じて異なりますので、記載することができません(外国投資信託の場合も同様です)。
  • 投資信託は、国内外の株式や債券等の金融商品に投資する商品ですので、株式相場、金利水準、為替相場、不動産相場、商品相場等の変動による、対象組入れ有価証券の価格の変動によって基準価額が下落することにより、損失が生じるおそれがあります。
  • 投資信託は、組入れた有価証券の発行者(或いは、受益証券に対する保証が付いている場合はその保証会社)の経営・財務状況の変化およびそれらに関する外部評価の変化等による、対象組入れ有価証券の価格の変動によって基準価額が変動することにより、損失が生じるおそれがあります。
  • 上記記載の手数料等の費用の最大値は、今後変更される場合があります。
<信用取引>

信用取引には、約定代金に対し、最大1.265%(税込み)(手数料金額が2,750円を下回った場合は2,750円(税込み))の売買手数料、管理費および権利処理手数料をいただきます。また、買付けの場合、買付代金に対する金利を、売付けの場合、売付株券等に対する貸株料および品貸料をいただきます。委託証拠金は、売買代金の30%以上で、かつ300万円以上の額が必要です。信用取引では、委託証拠金の約3.3倍までのお取引を行うことができるため、株価の変動により委託証拠金の額を上回る損失が生じるおそれがあります。

  • 自然災害等不測の事態により金融商品取引市場が取引を行えない場合は売買執行が行えないことがあります。
  • 2037年12月までの間、復興特別所得税として、源泉徴収に係る所得税額に対して2.1%の付加税が課税されます。

岡三証券株式会社
金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第53号
加入協会:日本証券業協会、一般社団法人日本投資顧問業協会、一般社団法人第二種金融商品取引業協会

香港における本レポートの配布:

本レポートは、香港証券先物委員会(SFC)の監督下にある岡三国際(亜洲)有限公司によって、SFCに規定される適格機関投資家(PI)に配信されたものです。本レポートに関するお問い合わせは岡三国際(亜洲)有限公司にお願いします。

米国内における本レポートの配布:

本レポートは岡三証券が作成したものであり、1934年米国証券取引所法に基づく規則15a-6に規定される米国主要機関投資家のみに配信されたものです。本レポートは、受領者及びその従業員が使用することを目的として配信しております。岡三証券は、米国内における登録業者ではないため、米国居住者に対しブローカー業務を行いません。本レポートのアナリストは米国で活動をしていないため、米国のリサーチ・アナリストとして登録されておらず、資格も有しておりません。したがって、当該アナリストは、米国金融規制機構(FINRA)規則の適用の対象ではありません。

その他の地域における本レポートの配布:

本レポートは参照情報の提供のみを目的としており、投資勧誘を目的としたものではありません。
本レポートの受領者は、自身の投資リスクを考慮し、各国の法令、規則及びルール等の適用を受ける可能性があることに注意をする必要があります。
地域によっては、本レポートの配布は法律もしくは規則によって禁じられております。本レポートは、配布や発行、使用等をすることが法律に反したり、岡三証券に何らかの登録やライセンスの取得が要求される国や地域における国民や居住者に対する配布、使用等を目的としたものではありません。

※本レポートは、岡三証券が発行するものです。本レポートの著作権は岡三証券に帰属し、その目的いかんを問わず無断で本レポートを複写、複製、配布することを禁じます。

(2021年8月30日改定)

ページトップへ