為替はやはり「達磨さんが転んだ」【高田レポート】

09/15(火)09:50

岡三グローバル・リサーチ・センター理事長
エグゼクティブエコノミスト 高田 創

「達磨さんが転んだ」、「鬼」はいつも米国だった

今からおよそ半年前のTODAY(2/26)で為替市場を取り上げ、為替の動きは、結局、「達磨さんが転んだ」とした。筆者が長年、為替について説明するときに用いてきた表現は「達磨さんが転んだ」とすることだった。「達磨さんが転んだ」とは子供の遊びで、鬼が振り向くと参加者の方向が一転することを指す。ここで筆者が言いたかったのは、為替市場ではいつも「鬼」は米国で、米国の思いのままに為替の方向が決まってきたとする経験則だった。円ドル相場は、本来、理論上は米国と日本の双方の要因で決まるはずだが、歴史的に見て大きな転換点はいつも米国サイドの要因で決まるとするものだった。以下の図表は戦後、70年余のドル円相場の推移である。歴史的にみて大きな転換はいつも米国サイドの要因によるものだった。

米国こそ為替操作国だったのでは

歴史を振り返ると、そもそも、1ドル360円と定めたのは米国であり、70年代に変動相場制に移行したのも米国の一存であり、その後、1985年のプラザ合意や95年のドル高転換等の大きな転換は、結局、米国サイドの思惑があった。米国は常に他国を「為替操作国」として為替政策を非難してきたが、筆者に言わせれば米国こそ為替操作国そのもので、基軸通貨国である米国の力の源泉はいかに為替市場に影響力を持つかにあった。こうした経験則のなか、今後のドル円相場、なかでも大統領選を挟む相場動向をどう考えたらいいかが本日のテーマである。結論を先に申し上げると、当面、米国経済の堅調さが意識されるなかでドル高が続くがその上昇余地は限定され、その後、米国大統領選の結果によってはドル高是正の動きが生じることもあると展望している。

日米金利差の影響が少ない従来とは異なる動き

今年になってから生じた動きは従来とは異なる点も多い。以下の図表は日米金利差と円ドル相場である。これまで、円ドル相場は日米の金利差で説明されることが多かった。その理屈で考えれば、今年、米国の長期金利は低下し、10年債は節目である1%を割る水準まで低下した。しかも、米国の金融緩和の長期化観測が生じ、長期金利の水準も低位安定が見込まれ、日米金利差で説明すれば明らかにドル安要因である。それにも拘わらず比較的ドルの安定が続くのは米国の経済の堅調さが続くこと、米国に株・債券の投資資金が集中している等の解釈が示されている。

米国経済の減速が生じる場合はドル高見直しも

先述の「達磨さんが転んだ」の経験則に沿って考えれば、金利差にもかかわらずドルが底堅いのは、結局、米国がドル高を依然許容している状態にあることを示す。その背景には、米国経済の堅調さが続いていることがある。以下の図表は各国のサプライズインデックスだが、足許、米国の指標が市場予想を上回る状況が続いていることがわかる。

日米の政権交代で為替に不連続な動きも

現時点では、米国経済の底堅さが意識され、現在の為替水準も許容されている。一方、リスク要因としては、米国大統領選に伴う非連続的な状況だ。今月の当TODAY(9/2)で議論したように、安倍政権の大きな成果は、日本がトランプ政権と通商摩擦を起こさなかった例外的な国であったことだ。その結果、円高の圧力から免れた可能性がある。それは、「安倍-トランプ」の緊密な関係に依存した面もあったと考えられる。
今月、日本では菅政権が誕生し、今年11月の大統領選で米国もトランプ大統領が再選されない可能性もあり、従来の米国のスタンスも変化するかもしれない。今後、米国経済の減速が意識され、しかも、米国として為替のドル高への問題意識が生じる場合、FRBへの圧力とともに、ドル高懸念を強 めることもありうる。「達磨さんが転んだ」理論ではドル高の許容が転換しドル高是正の意向が働きやすくなることだ。2021年の為替市場の展望も、最終的には、米国の実体経済状況を政権がどう評価するかにかかっている。すなわち、米国の為替戦略による転換、「達磨さんが転んだ」だ。今後、日米の政権交代に伴う為替市場の非連続な動きには留意の必要がある。

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